自殺を止めるゲーム

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 彼女はずっと暗い目をしながら淡々と語り続ける。まるで他人事のように。 「親戚の男から逃げちゃおうよ」  彼女に向かって言う。しかし、彼女は無表情に首を左右に振るだけだ。 「あの男はいわゆる暴力団と強いつながりを持っているんです。逃げる事なんてできません。逃げたところでつかまりさらに酷い目にあうだけです。私はかなりの高額で売りに出されているそうですよ。私にはよく分かりませんが。でも、男が私の商品価値を高く見積もっている以上、逃げられないようにしているのは間違いないのです。  最近は物騒な事件が増えてきたと言う理由で私のボディガードとして体の大きな男を私の付き人にしました。彼はボディガードと言いながら、私が逃げないようにずっと見張っているのです」  とっさに周囲を見回す。それらしき男の姿は見えなかった。 「三十分ほど前、ボディガードが運転する車に乗せられて移動している途中、男が事故を起こしたんです。事故の衝撃で男は意識を失っていました。だから、私は逃げてきたんです。死ぬために」 「今、逃げられているのならこのまま逃げてしまおうよ。それこそ今がチャンスじゃないか」
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