堀ちゃん

1/1
前へ
/1ページ
次へ

堀ちゃん

 兄譲りの声優オタクで子供の時から損ばかりしている。先日堀江ゆいのコンサートに行っていつものように「(ほっ)ちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」と叫び、グッズを沢山買って帰宅している時にオタク仲間の山嵐(ハンドルネーム)に出会った。お主はいつまで堀江ゆいに固執している、我らが水樹なゝの方がよほど有名で人気ではないかと奴が言うので貴様は堀ちゃんの良さが何も分かっていない、『ゴールデンタヰム』を全話見てから出直せと言い返した。  物のついでにと山嵐を連れてファミレスに入って適当に駄弁(だべ)っているとここからは死角となりやすいテーブルで職場の同僚が見知らぬ美女と何やら話していた。奴は浦成(うらなり)といううだつの上がらない男で、幼女趣味で田村(ゆかり)のファンであるということは大して仲良くもない俺も知っていた。山嵐に耳打ちをして浦成と美女の話に耳を傾けると奴はこの度あの美女と婚約し、それをきっかけにオタクはやめると宣言したという。貴様許さんぞと席を立とうとしたが、ちょうど会社の上司が店内に入ってきたので俺は再び席に腰を下ろした。プライベートでも赤シャツを着ているらしいあの上司は職場の万年係長で、奴は以前堀江ゆいを年増(としま)だと言ったので俺は永代(えいだい)に渡ってあいつを恨み続けると決めていた。  一人で寂しくファミレスに入ってきたらしい係長は浦成を見つけると意地の悪い笑みを浮かべ、君は年増の声優と絵に描いた幼女にしか興味がないのではなかったのかね、一貫性のない男だと言って浦成をいびり始めた。婚約者の前で趣味を言いふらされて気の弱い浦成は何も言い返せず、美女はいきなり現れた赤シャツの中年と情けない浦成を見て不快そうな表情をしていた。  ここに至ってはもはや我慢ならぬ、同じ声優オタクとして捨ておけんと思った俺は山嵐に目くばせをすると係長の前に躍り出て、高校時代に少しかじった柔術で奴の腕を取り投げ飛ばした。地面に叩きつけられて何をすると叫ぶ係長に俺は貴様のような人間に堀ちゃんや田村紫の何が分かる、同じ中年でもお前には何の価値もないと言い放って奴の腹部を裏拳で突いた。山嵐も加勢してくれようとしたが一連の騒ぎに浦成と美女は店外へと逃げ出し、近くにいた店員は警察を呼びに行こうとしていた。これではたまらんと考えた俺は山嵐と肩を並べてその場から走り去り、とはいえ上司に暴行を加えた事実に変わりはないのでその後の方策は何もなかった。  近いうちに再び求職活動を始めざるを得まいと悟り、それならば今のうちに遊んでおくのも良かろうとその足でパチンコ店に入った。この間新作が稼働開始した『ツヰンヱンジェル』を一通り遊び、お前も遊んでいけと山嵐にも金を払わせたが奴は茅野あいが演じる女子中学生に興味津々のようだった。この次があれば『マジカルハロヰン』も遊ばせてやりたい。  (終)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加