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またあの感覚だ。あの、意識を失う前の曖昧な感じ。
溶けるような思考に抗うべく、彼は手を握りしめる。感覚の薄い自分の手を。
「待て、まだ……全く、聞いてない……」
ライネは彼へ一歩踏み出すと、その手を優しく包み込んだ。
柔らかく、温かい手だった。生きている者の熱をはっきりと感じるような。
「大丈夫。時間はありますから」
諭すように口にした後、温かな手が離れていく。彼の意思とは関係無しに、離された手がライネへと伸びた。
「今はもうお休みください」
その手に触れる熱はなく、彼の意識は落ちた。
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