私のそばにいるよりは

1/13
前へ
/13ページ
次へ
「ただい…ま…」  パートが終わり、拓哉と2人で住むボロアパートに帰り、玄関で靴を脱ごうとして言葉を失いかける。  脱ぎ散らかされた、履き潰され(すす)汚れた運動靴。  嫌だ。またお義父さん来ている。  結婚前は優しそうな人当たりのいいお義父さんで、うまく付き合っていけると思っていた。  だけど、結婚して間もない頃からお義父さんは「ちょっとトラブっちゃってさ…」とお金を無心するようになった。  最近その頻度がどんどん高くなってきている気がする。  私、垣根結菜も旦那の拓哉も29歳。  共に正規雇用ではなく、パート・アルバイト雇用。  2人が生活するだけで精一杯だ。  お義父さんに渡すお金の余裕なんて、無い。  だけど拓哉が「たった1人の父親だから」と言って自分のお財布からお金を出す。  そして決まって「ごめん、来月のお小遣い前借りさせて…」と拓哉は私に頭を下げる。  いやいや、前借りも何も…無い袖は振れません。  家計もカツカツだし、前借りと言っても来月は来月で必要なお小遣い。  事実上の値上げ要求だ。  毎月のことだけど、先週もそのやり取りでケンカをした。  そして仕方なく、残り少ない私のお小遣いで立て替える。  そろそろファンデーションを買いたかったのにな。  私のパートの食堂は、濃いメイクはご法度だがスッピンも嫌がられる。  ファンデーションのグレードを下げようにも、これ以上譲れないラインまで既に下げている。  肌が弱い方らしいので、あまり安すぎるファンデーションだと肌荒れを起こすことがわかった。  それで結局買い替えることになるので、妥協し過ぎると無駄な出費になる。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加