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「ただい…ま…」
パートが終わり、拓哉と2人で住むボロアパートに帰り、玄関で靴を脱ごうとして言葉を失いかける。
脱ぎ散らかされた、履き潰され煤汚れた運動靴。
嫌だ。またお義父さん来ている。
結婚前は優しそうな人当たりのいいお義父さんで、うまく付き合っていけると思っていた。
だけど、結婚して間もない頃からお義父さんは「ちょっとトラブっちゃってさ…」とお金を無心するようになった。
最近その頻度がどんどん高くなってきている気がする。
私、垣根結菜も旦那の拓哉も29歳。
共に正規雇用ではなく、パート・アルバイト雇用。
2人が生活するだけで精一杯だ。
お義父さんに渡すお金の余裕なんて、無い。
だけど拓哉が「たった1人の父親だから」と言って自分のお財布からお金を出す。
そして決まって「ごめん、来月のお小遣い前借りさせて…」と拓哉は私に頭を下げる。
いやいや、前借りも何も…無い袖は振れません。
家計もカツカツだし、前借りと言っても来月は来月で必要なお小遣い。
事実上の値上げ要求だ。
毎月のことだけど、先週もそのやり取りでケンカをした。
そして仕方なく、残り少ない私のお小遣いで立て替える。
そろそろファンデーションを買いたかったのにな。
私のパートの食堂は、濃いメイクはご法度だがスッピンも嫌がられる。
ファンデーションのグレードを下げようにも、これ以上譲れないラインまで既に下げている。
肌が弱い方らしいので、あまり安すぎるファンデーションだと肌荒れを起こすことがわかった。
それで結局買い替えることになるので、妥協し過ぎると無駄な出費になる。
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