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「金井さん、お嬢さんいらっしゃい。こちらで失礼するわね」
「マダム、すまないね。私の不手際で」
日当たりのよさそうな大きなお部屋の大きなベッドの上に、マダムと呼ばれる女性は座っていた。
白髪が目立つ、ご年配の女性だ。
「あっ……」思わず声が漏れた。
ベッドサイドのテーブルに、私の天使の人形が飾ってあったのだ。
あぁ、良かった。無事だった。
気が緩み、涙が頬を伝う。
「ごめんなさいね。この人形、あなたの大切なものなんですってね。本当ならお返しするべきなんだろうけど、私も孫の気持ちを思うと…」
マダムは語りだした。
自分も大切にしてきた陶器の天使の人形があったのだと。
それは幼い頃に親からプレゼントしてもらった、この天使によく似たものだった。もしかしたら作り手が同じなのかもしれない。
15年前、小さかった孫がうっかりその天使の人形を落とし、壊してしまった。
ひどく落胆したが、形あるものは壊れるものなのだと自分に言い聞かせてきた。
……時々似た人形を見かけては、心を揺さぶられていたのも事実だ。
昨日、孫が嬉しそうな顔をして私の元を訪れた。
今までに見たこともないような満面の笑みで。
「おばあちゃん、見て!あの時の人形にそっくりじゃない!?」
私は忘れたつもりでいたが、孫は15年もの間悔やんでいたのだ。
同じではない、とは思ったが、確かに雰囲気と言い表情と言い、よく似ていた。
「ありがとう。大切にするわね」
親から送られたものでは無いが、孫が私の為にプレゼントしてくれたものなのだ。死ぬまでずっと、ここに飾っておくことを約束した。
……実は先程、購入した値段を金井さんから聞いて、びっくりしたの。
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