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天使の人形を手放して、10年が経った。
今、私達のもとには新しい天使、ならぬ5歳の娘がいる。
相変わらずのボロアパート住まいだけど、拓哉も安定した職業に就くことが出来、そろそろ新居を決めようか、と話している所だ。
お義父さんと4人で住める、すこし広めのアパートに。
あの日から本当にお義父さんは真面目に働き、お金も渡した以上に返してくれていた。
私達はそのお金を貯金し、いざという時の為に取っておいた。
その額、40万円。
決して天使の人形を買いなおす為ではない。
きっと今でもマダムに大切にしてもらっているだろうし、例えマダムが亡くなっても…お孫さんが大切にしてくれるだろう。そう信じている。
「なんだこれ。切手が貼られていないぞ」
ある日、拓哉が1枚のハガキを私に差し出してきた。
それは金井骨董品店からのお知らせだった。
『お求めのお品が提供出来そうですが、いかがいたしましょうか』
あの天使の人形の事だと気がついた。
同時に、マダムはお亡くなりになってしまったのだろうと察した。
「……いいよ。あのお金を使っても。いや、むしろ使って」拓哉は優しく微笑んだ。
そう言われ、私はやっぱりあの天使の人形をまだ取り戻したかったのだと気付かされた。
すぐに金井骨董品店に電話をする。
『マダムからの依頼でね。10万円。結菜さんにはそれ以上で売るなって』
「買います。すぐ買います!」
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