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拓哉と出会ったのは3年前。
私のパート先の食堂に、よく拓哉が昼食を食べに来ていた。
なんとなくよく喋るようになり、なんとなく一緒に住むようになり、なんとなく結婚した。
―――キッチンの向こうの部屋から拓哉とお義父さんの笑い声がする。
なんだかんだ言って、2人は仲良しだ。
私の父と母は10年も前に他界し、いない。
だから拓哉に優しそうなお義父さんがいて、羨ましく、家族になれることが嬉しかった。
勝手だけど、期待していただけに…正直幻滅した。
そう、私は家族が欲しい。
自分の子供が欲しい。
それは拓哉も同じ気持ちのはずだ。
だけどこんな生活じゃ、産まれてくる子に充分な生活をさせてやるなんて無理だ。
擦りガラスの引き戸を開ける。
狭い部屋には拓哉、お義父さん、そしてローテーブルの上には様々なカットケーキが6つも並んでいた。
「お帰り。父さんがケーキを買ってきてくれたんだ」
拓哉はキッチンに来て、お茶を淹れる準備をする。
「お義父さんが?」
珍しい事もあるものだ。
臨時収入でもあったのだろうか。
私はコソッと「今までのお金、返してもらえたの?」と拓哉に聞くと、拓哉は困った顔で笑い「いや、それはまだ」と言った。
「ほれ、結菜さんはどれがええかな。チョコか?苺のムースか?ここのケーキは美味いぞ」
え?お義父さん。まさかよく行かれるのですか?
私達、ケーキ屋なんて婚姻届を提出した日以来行っておりませんが…。
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