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ケーキよりお金を返して欲しい。
ケーキ6個より明らかに私のファンデーションの方が安い。
今、本当にファンデーションのお金だけでも必要なのだ。
勤め先から1日1枚マスクを支給して貰える事をいいことに、先週からファンデーションはマスクからはみ出る目元と額だけを使用している。
仕事が終わるとマスクの中は汗だくなので、マスクは廃棄し、顔を隠すように歩いて帰宅する。メイク直しすら出来ない。
そのファンデーションも明日の分で終わる。
「お義父さん、ケーキより少しでもお金を返してください」
怒られるかもしれない、そう思いながらも私はとうとう言ってしまった。
「なんや、結菜さんはケーキ嫌いか」
「いえ、そうではなくて……。そもそもこんなに沢山のケーキを買うお金がどこに…」
お義父さんが気まずそうな表情で、押し入れをチラリと見たのを私は見逃さなかった。
さぁ…と血の気がひく。
「おい、せっかくの父さんの好意を…」と言いかける拓哉の手を払い、スパーン!と押し入れの襖を開ける。
―――無い。
ここに隠してあった、母の形見の天使の人形が無い!
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