想い出のカード

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 私の中の笠原くんは、小柄でじっとしてなくて。  教室より外で遊ぶのが大好きなグラウンドの勇者。  確かにこの人も、日に焼けた肌で、体格良くて。  室内よりは外が似合いそうだけど。 「お、やっぱり小牧っていったら、本だよな」  私の混乱にお構いなく、彼は私の机に置いてある文庫本に注目する。 「え?」 「ほら、小学生の頃。一緒に図書室で本読んだろ?俺、小牧のおかげで、あれからも本を読むようになったよ」  大きな口を開けて楽しそうに笑う。  あぁ、この笑顔。図書室でいつもみてた笑顔だ。 「本……当に笠原くん、だ」 「なんだよ。何で疑うんだよ」 「だって、あまりに違いすぎて」 「ああ、身長とか?中学で一気に伸びたからな」  手を上に、ぐいんっとあげて、伸びた事を示してくれる。ふふっこういう動作も、変わんないな。 「で?今はどんな本読んでるんだ?見てもいいか?」  笠原くんが、机の上に置いてある文庫本を手に取る。 「うん!」  嬉しくて返事をしてから、ふと気がついた。 「あっ、だ、だめっ!」  止めた時にはもう遅くて。  笠原くんは、文庫本をペラペラッとめくっていき、栞として挟んでいたものに気づいた。 「これは……」  この前の片付けで見つけたのも何かの縁だと、お守りがわりに挟んできた。それがまさか。  いやだって、そもそも会えるなんて思ってなかったし。  恥ずかしくて両手で顔を隠しながら、そっと笠原くんの様子を見てみれば。  上下に並んで名前が書いてあるカードを手にして、フッと優しく笑っていた。 「なぁ。またおすすめの本、教えてくれよ」  そこには懐かしい笑顔をこちらに向ける、大人になった私の勇者がいた。
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