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大好きなかわいい彼女のルルが、隣にいる男に胸が当たるほどの近さで腕を絡め、頬の産毛が感じあえる距離に顔を近づかせ、俺が持つスマートフォンのカメラに笑顔を向ける。
表情をコロコロ変えながらクセのある高めの声で、男が作った歌をくちずさみ、たまに見つめあい、そうかと思うと明後日の方向に目線を変え、再びカメラ目線に戻る。
そろそろ30秒だ。
32秒でセットしたアラームが鳴り、男は笑顔を止めた。ルルはまだカメラが回っているかのように笑ったまま俺に近づきスマホの画面をのぞく。
「見して~」
鼻にかかった声でそういうとスマホを握る俺の右手の甲に自分の手の平をあて、ルルが見やすい方へ画面を傾ける。こういう行動が男を勘違いさせる。
「今のどうだった?」
ルルの後ろから、先ほどまで笑顔で画面に映っていた男も動画を見に来た。
「いつも通りだけど、ちょっと加工強すぎじゃね」
俺は適当に返事をする。
30秒の動画の内容は、男が作詞作曲した歌をルルと一緒に歌う動画。今年の4月末頃からSNSの動画投稿アプリに載せはじめ、6月に投稿した3曲目がバズり、10月の今では2人のアカウントフォロワー数は3万人を越えている。
「この目線外したところでカメラ上からアングルにいけない?」
男に言われ、俺も動画を見返した。
「加工強めでカメラ動かしすぎると酔わん?メインは歌だろ?」
「それもある。でも目線外しをあえて上から撮ればルルの可愛さ引き立つだろ」
「ケート、わかってるー」
ルルがまた鼻にかかる甲高い声で男に体を寄せた。
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