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恵斗の作るアップテンポで明るく小気味良い転調を繰り返す曲と機械的な音階に丁寧に音をはめ、人の心を掴むルルの歌声は、多くの若者の心にハマったらしい。
2人は本当のカップルかビジネスカップルか、についてコメント欄で頻繁に論争が続いていた。そしてビジュアルが良い2人には根強いファンとそれぞれのファンによるアンチまで生まれ始めた。
恵斗からは一度、「ルルとのそれはビジネスであって俺の感情は一切ない」と言われている。それから「ルルを支えてやってくれ」とまで言われた。お前は何様だと思いつつ、確かにルルからは心の奥に大きな地雷を抱えてるような、なんだか放って置けない危ない雰囲気を感じていた。
「ルルル」公開の4ヶ月ぶりにアップする予定の新曲も、振り付けは仲の良い今時のカップルの雰囲気そのもの。
歌いながらやたらと腕や指、目線など絡みの多い2人。
一応彼氏として見張ってはいるものの、いくらパフォーマンスとは言えやりすぎではないかと言いたくなる時がある。でも、強く言い出せないのは全てルルからの振り付けであり、恵斗は全て受け身でいるだけ。
それも俺をイラつかせた。
サビを歌い終わり、間奏に行く途中、動画時間残り29秒と言うところで恵斗の顔の前にいきなりルルの後頭部が映った。呆気に取られていると、32秒のアラームで現実に引き戻される。
「終わったー」
ルルは伸びをしてから俺の腕に絡み「見してー」とスマホの画面をのぞいてきた。
恵斗は何事もなかったかのようにパソコンの前に座り、メール画面を開いた。メール受信音が鳴り、「おっ」と声をだした。
「ルルー、Aプロダクションからお誘い来てるぞ。ノーカットで歌うやつの…」
もう無理だった。
恵斗の話を遮り撮影用のスマホを思い切り床に投げつけた。
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