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しかし、カラオケ店の入り口にいたのは恵斗と見知らぬ女子。
背は150センチほどの細身で色白。目は大きいが、他はマスクをしていて分からない。マスク美人系かもしれないと警戒した。服装はロリータ系とまでは行かないが、袖やスカートに膨らみがある水色のワンピースで、いたるところに白と薄ピンク色のフリルがついていた。肩まで伸ばした真っ黒の髪には、白いインナーカラーが入っていた。
恵斗は俺を見ると手で軽く挨拶する程度でいきなり店内へ入っていった。通された部屋には誰もいない。3人だけ。おいおいおい。
「え、どういうこと?説明して?どういう状況?」
困惑する俺を無視して恵斗はボーカロイドのカラオケ曲を入れた。
「これ知ってるよね」
ルルは無言で頷く。
前奏が始まった。この曲は俺も知っているが、ボーカロイド様用に作られたと言ってもよろしいくらい、人間には歌いずらい音域と、1音に言葉を5,6文字入れる歌詞。歌ってみた動画で歌い手が歌っているものをいくつか聞いたことはあるが、生歌やワンテイク動画で歌っている人は見たことが無かった。
白い手で軽くマイクを握り、目線は画面へ。そして俺は歌いだしてすぐに彼女の歌声にひかれた。普段の話声とは違う、鼻にかからない声。明瞭な歌詞。流れるような音階。シャンソン歌手のような勢いや迫力はないが、沁みる透明さがある。腹から出ていなさそうな声で、長く続く息も不思議だ。
「生きたボーカロイドみたいだ」
俺が小さな声で言うと、それを知っていたかのような含み笑いをして恵斗は俺を見た。
一曲間違えずに歌い終わったルルは、アルコールが入っていないにもかかわらずいきなり俺に抱きついてきた。
「よろしく」
嬉しさ半分、地雷系女子に気に入られたかと思い、少しひやっとした。
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