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そいつの名前
「やあ!」
片手を上げて挨拶を投げ掛けてくる姿をぽかんと口を開けたまま眺めていたら、「間抜けな顔……」と少し眉間にシワを寄せながらそいつが言う。
「お前、何者……?」
「いやいや、僕を作り出したのは旺基くんでしょ。その言い方は酷いんじゃない?」
「俺が作り出したって……。ってか、俺の名前……なんで……?」
「旺基くんのことなら何でも知ってるよ。だからほらっ、僕の顔、よーく見てみてよ」
両手を大きく広げながら抱き上げろと言わんばかりに手をパタパタさせているから、仕方なく俺は自分の利き手である右手をそっとそいつの元へと下ろしていき、差し出した。
親指サイズのそいつが、「よいしょ」と指先を小さな手で掴みながら手の上に乗ってくる。掴まれた指先がくすぐったく感じながらも、確かにそこにある重みに不思議な感覚が広がる。
ちゃんと乗ったのを見届けた後、「動かすぞ」と問いかけてそいつが頷いたと同時に、ゆっくりと自分の顔付近まで腕を上げていく。
目元までやってきたそいつを、目一杯近づけてしっかりと確認する。
――めちゃ、俺好みじゃん――
まさに昨日の動画から飛び出してきたような目鼻立ちのくっきりとした可愛らしいふわふわパーマの小さな男子が、そこにいた。
「えっと、名前は?」
「旺基くんは僕のこと、何て呼びたい?」
「名前は、ないのか?」
「僕、産まれたばっかりだし、あるわけないじゃん。だから、旺基くんがつけてよ」
「マジか……。じゃあ……」
じっとそいつの顔を見つめながら考えていると、ふわりと浮かんできた。
「アキ……」
「アキ? それが僕の名前?」
「そう。アキはどう?」
「もちろん、いいに決まってる。旺基くんがつけてくれたなら、それでいい」
「じゃあ、決まり。アキ、これからよろしくな」
「こちらこそ、よろしくね」
左手の人差し指でそっと頭を撫でると、くすぐったそうに肩をすぼめている。
そして、アキはその指を小さな手で包み込むと、自分の口元へ近づけて唇を当てた。
そのしぐささえも可愛くて堪らなく思えるのは、やっぱりこいつが自分好みなうえ、いちいち俺がきゅんとする萌えポイントをわかっているせいだからなのかもしれない――そう思った。
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