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「どうかしたか?」
「観光地なのに思ったより閑静な場所だなと……」
「田舎だろ? メインの温泉街は駅からは離れてるからこの辺りは人が少ないんだ。こういう場所の良さはまだお前には早かったか」
「……それくらい俺だってわかりますよ。バカにしないでください」
もし自分で行き先を選んで旅行するなら多分温泉は選ばないとは思う。だからって良さがわからないわけではない。住むとなったら別だろうけど、たまにはこういう静かなところで穏やかな日々を過ごすのだっていいと思ってるんだ。
でもよかった、思ったよりも普通に話せてる。本当ならこんな喧嘩腰じゃなくてもっと楽しく話せたらいいなとは思うけど。
「何枚か写真撮りたいからちょっと待っててくれ」
井口さんが鞄からカメラを取り出した。ああいうの、一眼レフって言うんだっけ。写真だけならスマホでも撮れるのに、わざわざちゃんとしたカメラを用意してるってことは仕事に関わることだからなのかな。もしかしてカメラマン? さすがに安直すぎるか。
駅の外観や遠くに見える山、空なんかの写真を数枚撮った後、井口さんがカメラを下ろした。
「すまん、待たせたな。そんじゃ昼飯食いに行くか」
歩き出す井口さんを追いかけて隣に並ぶ。いつもだったら後ろを着いていくけど、今日くらいはいいよな。2人で旅行に来てて前後に並ぶのもおかしいし。
道路の脇には広い庭のある民家が並んでいる。高いビルやマンションとかもほとんどなくて、だから遠くの山まで見えるんだろうな。
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