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目に入るもの1つ1つが新鮮で、ついキョロキョロしてしまう。
「そんなに珍しいか? ある意味おのぼりさんみてえだな」
落ち着きのない俺の行動を笑う。いつもみたいにからかうような感じじゃなくて、どことなく楽しそうな、そんな表情だ。
今この状況に浮かれてるのが俺だけじゃなかったらいいな。
「……しょうがないじゃないですか、こういう所初めて来るんですから」
「お前出身どこなんだ?」
「生まれも育ちも東京です。親戚もみんな都内なので田舎ってあんまり馴染みがなくて」
昔は夏休みとかに田舎のおじいちゃんの家に遊びに行ったなんていう友達が少し羨ましかったっけ。さすがにもう虫取りとか山登りで楽しめるような歳でもないけど、今だからこその楽しみ方がある。
「もしかして井口さんってこの辺りの出身なんですか?」
「いや、俺も東京。俺が仕事で世話になった恩師と言える人がいるんだが、その人の出身がこっちの方でな。実際に連れてきてもらったこともあるし、何度も話聞いてるうちに俺にとっても第二の故郷みてえな気がしてんだよな」
「そうなんですね」
仕事のこと、詳しく訊いてもいいんだろうか。でも前にはぐらかされたのにまた訊くのもな。もし隠すつもりがないなら井口さんの方から言ってるだろうし、やっぱりやめといた方がいいよな。
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