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店を出てまたさっきの道を歩き出す。
「色々衝撃的な店でしたね」
「お前ずっとビックリした顔してたな」
「え、『ずっと』って、ずっと見てたんですか⁉︎」
「そりゃあ目の前にいんだから見えるだろ」
当然といえば当然かもしれないけど、そんなに見られてたなんて。変な顔してなかったかな。怪しまれたりしてないだろうか。ていうかそもそも俺は他に好きな人がいて嫌々言うことを聞かされてることになってんのに、こんな楽しんでたらおかしいよな。つまらないふりは難しいけど、あんまり笑ったりしない方がいいかもしれない。
しばらく歩くと少しずつ店が増えてきた。
ここはなんの店なんだろう。ぱっと見はコンビニっぽいけど、店先には野菜が並べられていたり、作業着のようなものも置かれている。お店ひとつとってもこの地域ならではって感じでおもしろいな。
「気になるなら寄ってみるか?」
「あっいや、見てただけなので……」
「せっかく来たんだ、遠慮なんかすんなよ。本当に行きたいとこも見たいものもないのか?」
「大丈夫です。井口さんの仕事で来たんですから、俺のことは気にしないでください」
どこに行きたいとか、何をしたいとか、そんなわがままを言う必要がないくらい、今同じ時間を過ごせていることだけでもう充分。だけど本当のことは言えないし、こうやってごまかすしかない。でもそしたら楽しんでるようには見えないだろうし、結果的にはこの方が都合がいいのかも。
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