ep15

17/23
前へ
/236ページ
次へ
 俯いたまま歩く俺の顔を井口さんが覗き込む。心配してくれることの嬉しさ。距離の近さに対する恥ずかしさ。俺の気持ちがバレたんじゃないかという不安。やっぱり捨てきれない期待。たくさんの感情が入り乱れて、どんな顔をして、どんな反応をしたらいいのか、もう自分でもよくわからなくなっている。 「あっいや……すみません、ちょっと余計なこと考えてて……」 「何考えてたんだ?」  話の途中で上の空になった俺を責めもしないのは、俺にほんの少しでも好意を持ってくれているからなのか、それともなんとも思ってないからなのか。  今だけ、ほんの少しだけでいいから、夢を見るのを許してほしい。 「……さっきの、井口さんはもし男から好かれてても気にしないってことですよね。みんなそうだったらいいのになって……」 「そう言うお前は? 女から告白されても困らないのか?」 「経験がないので想像でしかないですけど、迷惑とは思わないかと……。俺自身よくわかってないっていうのもあるんですけど……」 「わかってない?」  俺の言葉を聞いて井口さんは不思議そうな表情を浮かべている。そりゃそうだよな。多分『わからない』っていうこと自体が理解できない話だろうから。 「昔から『好き』ってよくわからなくて、初めて好きになったのが龍也だったんです。だから男が好きなのか、ただ龍也が特別なだけなのか、ずっとわからなくて。次に好きになったのも男の人だったから、ようやくそうなのかもって思い始めたところです」 「別にどっちかに決める必要もねえんじゃねえか? 性別なんてそんな重要なことでもないだろ」
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

649人が本棚に入れています
本棚に追加