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「……そんなふうに言えるのは井口さんぐらいですよ。多分普通の人は同性に恋心は抱かないですから」
やっぱり井口さんは変わってる。おそらくほとんどの人は自分がどっちの性別を好きになるかなんて意識するより前から決まっていて、そうじゃない方に恋愛感情を抱くことはない。同性愛者に対して興味を持つところまでは理解できるけど、だからって手を出すことまではしないだろう。
改めて考えると俺達の関係って本当に意味わからないよな。誰かに質問されても答えようがないこの不確かな関係性に名前を付けられたらいいのに。
ずいぶん話し込んでしまった。写真を撮るどころか景色を見るような暇もなかっただろうし、また仕事の邪魔になってたかもしれない。それにそもそもこんな話、井口さんは興味ないよな。
「さっきから俺の話ばっかりしてすみません。つまんないですよね、こんな……」
「そんなことねえよ。それでスッキリするなら好きなだけ吐き出せばいいだろ。俺は聞いてやることぐらいしかできねえけどな」
「聞いてもらえるだけでもありがたいです。こんな話、他にできる人いないですから」
家族にも、友達にも隠し続けてきたことを、井口さんだけが知っている。狙ってそうしたわけじゃないし、最初はそれが怖くてたまらなかった。
だけど俺の秘密も、証拠の動画だってあるのに悪用する素振りは一切見えない。脅迫まがいのことをされたのも最初のあの1回だけ。それどころかずっと俺の意思を尊重してくれている気さえする。
……なんでこんなに優しくしてくれるんだろう。
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