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鳥居をくぐって境内へ。
住宅街の中だけど周りを背の高い木で囲まれていて、木で太陽が遮られるからか少し涼しい。まるでここだけ別世界みたいだ。
静かに参道を進んでいく。お詣りのルールとかマナーはよくわからないけど、なんとなく無駄話はしちゃいけないようなそんな雰囲気で、心なしか背筋も伸びる。
そうだ、お賽銭。財布を開いてみると一通りの硬貨は揃っているようだった。こういう時っていくら入れたらいいんだろう。験担ぎで5円ってよく聞くけど、そんな少額でいいんだろうか。でも金額が高ければ必ず願いが叶うってものでもないしな。とりあえず100円くらいにしておこう。
賽銭箱の前に立って用意していた小銭を入れる。隣では井口さんが鞄から取り出した白い封筒を入れていた。なんで封筒? もしかしてそれが正式なマナーなのかな。
そして手を合わせてから気付いた。肝心のお願いをちゃんと考えてなかったことに。どうしよう、今叶えたいことなんて1つしかないけど、さすがにそれはなぁ。……でも直接伝えるわけじゃないし、思うだけなら……。
たった100円じゃ……いや、いくら積んだって叶うとは思えない図々しいお願いをして、最後に深く頭を下げた。
参拝の後、境内を散策しながらさっきのことを井口さんが話してくれた。
「ここは数年前にさっき話した恩師に連れてきてもらったことがあってな。その時どうしても叶えたい夢があって、恩師の勧めでここでお詣りしたんだよ」
「その夢は叶ったんですか?」
「ああ。俺が願ってた以上の大きい成果があったな」
「へぇ、すごいですね。でも意外です。井口さん神様とか信じるんですね」
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