ep16

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ep16

 手続きを終えて仲居さんに案内してもらいながら部屋に向かう。こんな仲居さんがいるような旅館なんて慣れてないから、なんか落ち着かない。こういうとこって仕事でっていうよりは恋人とか家族で来ることが多い気がするけど、俺達はどういうふうに見えてるだろう。  井口さんは堂々としてるな。こういうとこ泊まり慣れてそうだ。昼間に言ってた恩師って人と来たりしたのかな。それともプライベートで? 俺より年上なんだしいろんな経験があるのはおかしくないけど……わかってるはずなのに思い知らされる。俺は井口さんのことを何も知らないんだって。  案内されたのは旅館とホテルを混ぜたような部屋だった。目の前には畳の部屋と、隣にはフローリングの上にベッドが2台。そして部屋の奥にあるのは専用の露天風呂。新幹線の中で見せてもらった、ああいうガイドブックの表紙になっていてもおかしくないような豪華な部屋だ。  仲居さんがお茶を淹れながら夕食の時間とか、大浴場の時間を説明してくれる。大浴場もこの部屋のお風呂も、全部源泉掛け流しらしい。 「それではお夕食のお時間まで、ごゆっくりお寛ぎください」  一通りの説明を終えて仲居さんが戻ると部屋の中には俺と井口さんの2人だけになった。どうしよう、何か話でも……。とりあえず淹れてもらったお茶を飲んで、気まずさを紛らわす。
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