ep16

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「晩飯までまだ時間あるし先風呂入るか? 結構歩いたし汗かいたろ」 「えっ⁉︎ やっ、えっと……」 「ああ、別に覗いたりしねえからゆっくり入ってこいよ」  焦った、てっきり一緒に入るのかと……。そういうつもりで露天風呂付きの部屋を選んだわけじゃないのか。……それともそういうのは夕食が終わってから……? 「じゃあお言葉に甘えて……」  露天風呂につながるドアを開けると、そこには2人でも余裕すぎるほどの大きなお風呂と、目の前には一面の緑、そして綺麗な青い空が広がっていた。  早速湯船に浸かって、掛け流しの源泉と絶景を堪能する。なんて贅沢な時間だろう。  見上げた空はまだ明るくて星が見えるほどではないけど、夜になったらもっと綺麗なんだろうな。  旅館に泊まること自体滅多にないけど、客室露天風呂なんて初めてだ。絶対高いよな、ここ。こんなところに2人で2泊って、いったいいくらかかるんだろう。交通費だってあるし、俺の月給なんて軽く飛んでしまいそうだ。  井口さんはいいって言ったけど甘えっぱなしっていうのもなぁ。何かお返ししたいけど、俺にできることってなんだろう。井口さんが喜んでくれそうなこと……。身体で返す以外思いつかないけど、そんなの絶対無理だ。  ……夜、そういう雰囲気になったらどういう態度でいたらいいだろう。もし俺が『好き』って言ったらなんて思うかな。嫌われはしないとしても、多分恋人にはなれない。それで終わるなら仕方ないけど、俺の気持ちを利用して弄ばれたりしたら……でも井口さんはそんな人じゃ──。いや、これは「そうであってほしい」という勝手な願望だ。井口さんがどう思うかなんて、俺にわかるはずない。
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