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部屋に戻ると井口さんはカメラをいじっていた。昼間に撮った写真を確認してるのかな。
「風呂、どうだった?」
「景色もいいしすごく気持ちよかったです。俺露天風呂って初めて入りました」
「そりゃ選んだ甲斐があったな。まだ時間大丈夫そうだし俺も写真撮りつつ入ってくるか」
そう言ってカメラを持ったまま井口さんが風呂に向かった。
今のはただのリップサービスというか、俺がああ言ったからただそう答えただけだと思うけど、まるで俺のために選んでくれたみたいな……。
座椅子に座り、飲み残していたお茶で渇きを潤す。
向かい側の、さっきまで井口さんが座っていた場所には鞄やスマホが置かれたままになっていた。俺が言えたことじゃないけど、ずいぶん無防備だな。……今なら覗けるかもしれない。でも見られたら困るものをこんなふうに放置しておかないだろうし、もしかしたら罠か? 俺が触ったらわかるような仕掛けがあるとか。
……さすがにそんなミステリーのトリックみたいなのは考えすぎだとしても、スマホにロックぐらいはかけてるだろう。もしあの動画を消されたら脅しのネタがなくなるもんな。
それにただ情報が欲しいわけじゃない。井口さんから教えてもらえなければ、教えてもいい相手だと思ってもらえなければ、そんなのなんの意味もないんだ。
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