ep2

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 指定された土曜日は朝から憂鬱で堪らなかった。  いったい何を要求されるのか、あのメールだけじゃわからない。待ち合わせ場所がバーなら人の目もあるし、それほど心配はないだろう。だけど一緒に酒を飲んで終わり、ということはないはずだ。  その後は──。またこの間みたいに相手をさせられるんだろうか。むしろそれだけで済めばいい方かもしれない。きっと世の中には俺なんかじゃ想像がつかないくらい、もっと怖いことだってあるだろう。  せめて今以上に最悪な状況にはならないことを祈る。  約束の時間に遅れないよう少し早めに家を出る。もちろん待ちきれなくて、なんて理由じゃ断じてない。  バーの大体の場所は把握しているつもりだけど、あの時は酔ってたし入ろうと思って入った店じゃなかったから、記憶違いもあり得るかもしれない。時間に遅れて、すっぽかされたなんて思われてしまっては大変なことになる。  最寄りの駅を出て朧げな記憶を手繰り寄せながら店を探す。  この前は龍也と飲んでいた居酒屋を出て駅に向かってた時だったから、今日は反対側から探すことになる。確かこの辺りだったはずだけど──。 「お、早いな。ちゃんと来れたか」  突然後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、思わず肩が跳ね上がる。 「なんでそんなびっくりしてんだ。俺に会えて嬉しかったか?」  あいかわらず訳のわからないことを……。お前は楽しいだろうな。俺みたいに弱みを握られてるわけでもなく、乱暴に扱って壊れても気にもしないようなおもちゃを手に入れたんだから。 「おいおい、無視か? まぁいいか、とりあえず入ろうぜ」
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