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ワインとステーキを合わせて味わってみる。ステーキ自体今まで食べたことがないレベルのいい肉なのは言うまでもないけど、かかっているソースがめちゃくちゃ美味しい。ソースにも赤ワインが使われてるのかな。程よい酸味がステーキにもワインにも合う。
「どうだ?」
「ステーキもワインもめちゃくちゃ美味しいです。そういえば井口さんワインっていうか、ウイスキー以外のお酒飲んでるの珍しいですね」
「食事と合わせて飲むような酒じゃねえからな。どうせなら美味い料理に合う美味い酒の方がいいだろ」
ウイスキーってそういうお酒なんだ。確かにいつものバーで飲む時はお通しに出されたものをつまむくらいで、食事らしい食事はしたことがない。どのお酒がどんな料理に合うとか、そういうのも人生経験の差なんだろうな。
「……そうなんですね。俺、料理とお酒を合わせるって考えたことなかったです」
「別にそれも間違っちゃねえと思うがな。好みは人それぞれだし、例え料理とは合わなくても好きな酒飲む方が楽しいだろ」
せっかくの楽しい会話を途切れさせてしまうようなことを言っても、怒ることも慌てることもなく、俺を否定することもしない。
井口さんは凄いな。ちゃんと自分の考えを持っていて、世間体とか誰が言い出したかわからない常識にとらわれることなく生きている。
これはただお酒の選び方ってだけでそんな大げさな話じゃないのはわかってるけど、俺の生き方そのものを許してもらえてるような、そんな気がして。
俺ももっとそんなふうに生きられたらな。
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