ep16

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 普段の夕食だったら絶対に食べきれないほどの料理とお酒を堪能して、俺達は夕食会場を後にした。   「ちょっと食べ過ぎました……」 「想像以上だったな。新しい発見もあったし」 「釜飯と白ワイン、美味しかったですね」  夕食の間にほぐれた心と大量に摂取したアルコールの影響でふわふわしていて、足元がおぼつかない。それにこの後のことを考えると落ち着いてなんていられなくて、つい口を開いてしまう。  井口さんと夜を過ごすのは初めてじゃないし、むしろ井口さんが俺を呼び出すのはが理由だ。だけど最近は──あの『好きな人ができた』と告げた日からはそれもなくなってしまった。  今日はどうだろう。ここしばらく何もなかったのは井口さんの気遣いだったのか、それとも言葉通り、仕事が忙しくてただ時間が取れなかっただけか。 「この後どうする? せっかくだし大浴場の方も行ってみるか?」 「大浴場ですか? えと、どうしよう……」  ここに来る前は一緒に温泉に入るなんて無理だ、と思っていた。だけど部屋に着いて別々に風呂に入った時に、ホッとしたのと同時に、ほんの少しガッカリしたのも事実で。 「……確か大浴場の方にも露天風呂あるんですよね。さっき部屋の露天入った時はまだ明るかったから、どうせなら星が見えるようになってから入るのもいいかなって思ってて……」  一緒に風呂なんて、多分今までの俺なら断っていただろう。だからおかしくない、それっぽい理由をつけようと思った。……けど絶対失敗した。これじゃ言い訳をするために言い訳をしたようにしか聞こえない。こんなことなら素直に返事をした方がマシだったな。
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