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「お礼されるほどのことじゃ……」
「お前にとっちゃ大したことじゃねえのかも知れねえが俺が助かったのは事実だからな。もらってくれよ。無理にとは言わないが、お前がいらないって言うならゴミになるだけだから」
「えっ⁉︎ ……捨てるくらいならもらいます」
捨てるっていうのも本気じゃないのかもしれないけど、井口さんの気が変わってしまわないように、紙袋を掴んで自分の方に引き寄せる。
また嫌な言い方をしてしまった。本当はすごく嬉しかったのに。
「あの……ありがとうございます」
せめてお礼ぐらいはちゃんとしよう。そう思って顔を上げたけど、目に映った井口さんの表情は俺の予想とはあまりにかけ離れていて息ができなくなった。なんとかお礼だけは伝えられたけど、その次の言葉が出てこない。
なんでこんな睨まれてるんだ? 俺のせいで風呂に行けなかったから? まさかそんなわけないよな。やっぱり俺の態度に怒ってるんだろうか。
「お前、その顔──」
そう言われて今度は心臓が止まりかけた。今どんな顔をしてるのかすら、もう自分じゃわからない。だけどそう言うくらいだから多分普通じゃないんだろう。もしかして気付かれたんじゃ……。
「だいぶ赤くなってるな」
あぁ、やっぱりそうか。もうこれで終わりかな。帰るまでの間どうしよう。そもそももう一緒にいるなんて無理か? 自分で新幹線取り直して先に1人で帰るべきだよな。
……付き合えるなんて本気で思ってたわけじゃないけど、それでも振られるのはやっぱり辛いものだな。
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