ep16

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「あ……あの、俺──」 「やっぱり飲み過ぎたみたいだな。それに今日は疲れたろ。明日もあるし、今日はもう休むか」  井口さんが洗面所に向かった後、1人になった部屋の中で大きく、だけど聞こえてしまわないように息を吐き出した。  よかった、気付かれたわけじゃなかった。まだ手は震えているし、背筋を伝う汗も引かない。井口さんが戻ってくるまでになんとか落ち着かなきゃ。  龍也の時はただ友達として傍にいられるだけで楽しかったし、付き合うとかキスとか……身体の関係も1回も考えたことないと言ったら嘘にはなるけど、それでも妄想の域を出なかった。だけど井口さんとは変に関係を持ってしまったせいで、その先を期待するのを止められない。振られることがこんなに怖いことだったなんて知らなかった。  そう考えると龍也はすごいな。ちゃんと自分の気持ちを伝えて、喧嘩した話とかも何度も聞かされたけどその度に2人で乗り越えて、そしてこれから先の人生を一緒に過ごすと決めて。俺にはそんな覚悟もないのに夢が現実になるのをただ待ってるなんて、そんな都合のいい話ないよな。……いい加減俺も覚悟決めるべきなのかな。この旅行中すぐに、っていうのは無理だとしても。
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