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ep17
何もないまま夜が明けた。
昨日ベッドに入った時は隣のベッドから聞こえる井口さんの寝息になぜか緊張してしまって寝られないかもしれないと思ったけど、どうやら杞憂に終わったらしい。一昨日もあんまり寝てなかったし、昨日は歩き回って体力を消耗したせいかな。しっかり寝たから頭も体もすっきりしている。
それと、覚悟と言うにはだいぶ弱々しい、俺の決意。恐怖心もないわけじゃないけど、昨日までより心は軽い。今日は昨日みたいにならないように、もっと普通でいられるといいな。
とりあえず朝食から。昨日の夕食会場と場所は同じだけど、フロア内も中庭もライトアップされていた夜とは対照的に、朝日で照らされたこの場所は雰囲気も変わって昨夜とは別物みたいだ。
肝心の朝食も夕食ほど豪華ってわけじゃないけど、元の素材がいいからかただの白いご飯も、程よく塩気がきいた焼き鮭も美味しくて、また朝から食べ過ぎてしまいそうだ。
部屋に戻り一息ついたところで井口さんが着ていた浴衣の帯をほどき始めた。
「ちょっと用事済ませてくる」
「何か手伝いますか?」
「いや、大丈夫だ。せっかくだからゆっくり朝風呂でも入ってこいよ」
井口さんを見送って部屋の露天に入る。
こんな朝から入る露天風呂もいいな。まだ日が昇り切る前の、ほんの少し冷たさの残る空気が火照った肌には心地いい。
だけど空気はこんなにも澄んでいるのに、俺の心のモヤモヤは晴れそうにない。
井口さんの用事ってなんなんだろう。手伝いなんて必要ないことなのかもしれないけど、わざわざ別行動しなきゃいけないようなことなんだろうか。せっかく一緒にいるのにな。でもただ遊びに来た俺と違って井口さんは仕事してるんだから我慢しなきゃだよな。
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