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昨日は新幹線での移動の時間もあったから、多分今日の方が使える時間は多いはず。しっかり寝て体調は問題ないから大丈夫だとは思うけど、もし今日も歩き回るならペース配分を考えないとまた迷惑をかけてしまうかもしれないし、せめて心の準備ぐらいはしておきたい。
「今日は県内の別の観光地に行く予定だ」
別の、ってことはここから離れた場所だろうか。さすがにそれなら歩きってことはないか。
「じゃあ今日は電車ですか?」
「いや、今日はあれで」
ちょうど玄関を出たところで井口さんがある方向を指差した。その先にはシルバーの車が停まっている。
「もしかしてさっきレンタカー借りに行ってたんですか?」
「ああ」
それならそう言ってくれたらわざわざ戻ってこなくてもいいように俺もついていったのに。そう言いかけて慌てて口をつぐんだ。違う、俺を連れて行かなかったのは優しさとか気遣いじゃなくて、都合が悪かったからだ。
レンタカーを借りるのには免許証を見せなきゃいけない。脅迫のために俺の免許証のデータを持ってる人が、そんな大事なもの俺に見せるはずないよな。
そうだ、あまりにも優しくしてくれるからまた忘れてしまうところだった。
昨日の夜は酒にも雰囲気にも酔ってたからバカなことを考えてしまったけど、気持ちを打ち明けたところで上手くいく可能性なんてあるはずない。俺が決めるべきなのは何があっても……たとえ終わりが来ても黙って受け入れる覚悟だろう。
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