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ふと視線を感じ右隣に目を向けると、頬杖をつきながらジロジロとこちらを見ている井口と目が合った。
「……なんですか?」
「いや、俺に対する態度とずいぶん違うなと思って」
何当たり前のことを不思議そうに。まさか嫌われてる自覚がないのか? メンタルが強いんじゃなくて、壊滅的に鈍感だっただけか。
「そうですね。別にバーテンダーさんを嫌う理由ないですから」
「俺のこと嫌いか?」
「……むしろなんで好かれてると思えるのか知りたいですね」
その後は特に会話もなく頼んだ酒ができあがるのを待つ。この間のことはひどく酔ってたとはいえ合意の上だったなら、百歩譲って勘違いするのもわからなくはない。だけど今日は嫌がる俺を脅して無理矢理呼びつけてるんだぞ。好きどころか、この世で一番嫌いだよ。
「お待たせいたしました」
その声で前を向くとまるで宝石のようにキラキラと輝くグラスが目に入った。薄いミントグリーンのカクテルの中では無数の泡が弾けて消えていく。
横では井口が自分のグラスを軽く持ち上げる仕草をしていた。乾杯なんかするかよ。気付かないふりをしてグラスを口元へ運ぶ。
ひとくち飲んでみると口の中に爽やかなミントとレモンの香りが広がる。普段飲むレモンサワーとかよりも本格的な感じなのに、初心者の俺でも飲みやすくて美味しい。
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