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「美味いか?」
「……美味しいです」
俺の返事を聞いて井口が嬉しそうに笑っている。このカクテルを勧めてくれたのも、作ってくれたのもバーテンダーさんなんだからお前には関係ないだろ。
「なあ、お前が普段飲むのはどんな時だ?」
「そんなにしょっちゅう飲むわけじゃないですけど、嫌なことがあった時とか……」
「誰かと飲んだりする時は? そういう時は楽しくないか?」
「会社の飲み会とかも行きますけどあんまり……。友達と……それこそ龍也と飲む時は楽しくないわけじゃないですけど、結局彼女の愚痴とか惚気とか聞かされるんで……」
龍也にとってはなんてことない話のつもりなんだろうけど、聞いてるうちに俺の心の中は真っ黒になる。
なんでそんな女のために龍也がそこまで我慢する? 嫌ならもう別れたらいいのに。──ねぇ、俺じゃダメ?
そんな言葉を吐き出してしまわないように、アルコールと一緒に飲み込むんだ。
「はは、そりゃ楽しくねえなあ」
言葉とは裏腹にずいぶん嬉しそうだな。
そういえばなんでこんな普通に喋っちゃってるんだろう。いくら龍也のことを知ってるのが井口だけだからって。気を付けないと、これ以上俺を強請るためのネタを与えてしまわないように。
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