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「いいか、今お前が飲んでるようなカクテルは30分くらいかけてゆっくり楽しむもんなんだ。連れやバーテンダーと話しながらだったり、何も考えないでボーッとしながらでもいい。酒っていうのはそんなふうに、嫌なこと忘れるためとか酔うためじゃなくて、酒そのものを楽しみながら飲むもんだろ。1人でも誰かと一緒でもな」
楽しみながら、か。そんなふうに考えたことなかったな。こいつに教わるっていうのは癪だけど、確かにそういうのもいいかもな。
「……そうですね。じゃあしばらくボーッとしながら飲んでみたいので話しかけないでもらっていいですか?」
「ははっ、そうきたか。一本取られたな」
ただ氷が溶けるのを眺めてみたり、他の人のオーダーのカクテルをどんな味なんだろうって想像してみたり。完全に頭が空になるわけじゃないけど、嫌なことを忘れて、ゆったりと居心地のいい時間を過ごしていた。
「そろそろ飲み終わりそうだな。次どうする?」
その声で急に現実に引き戻される。そうだ、こいつがいた。せっかく忘れてたのに。
そもそも次に何を頼むか、という話ならあんたとしたってしょうがない。
「あの、すみません。フルーツ系のカクテルで何かおすすめってありますか?」
バーテンダーさんに声を掛け、話をしながら次のカクテルを選んでもらう。これが結構楽しい。
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