ep2

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 また頭をなるべく空にしてカクテルを味わおうとしていたが、ふとあることを思い出した。  何も考えないで注文しちゃったけど、このカクテルって──。 「どうした、キョロキョロして」 「ここメニュー表とかってないんですか?」 「あるにはあるが基本的なものしか載ってなかったはずだぞ。何か頼みたいものあるのか?」 「いえ、その、これいくらなのかなって思って。さすがに手持ちで足りないってことはないとは思うんですけど……」  この前は何も考えず勢いで入っちゃったけど、それまでバーなんて入ったことがなかった。一応ネットで少し勉強してみたけど酒の種類によっては1杯で何千円、何万円もするようなのがあるらしい。まさかこれとかさっきのがそうだったりしないよな? 「なんだ、そんなことか。気にしなくていいから好きなの飲めよ。記憶なくさない程度にな」 「……井口さんに借り作りたくないので」 「俺が連れてきた客の分は俺がまとめて払う。それがバーでのマナーってもんだ」  そんなマナーがあるんだ。本当に居酒屋とかとは全然違うんだな。  でも確かにこういうところってデートとかで男性が女性を連れて来るようなイメージがあるから、男が払うものなのかも。……俺も男だし、全然デートなんかじゃないけど。 「もしかしてこの間の分も井口さんが出してくれたんですか? 自分で払った記憶もないし、財布の中も飲んだにしては減ってない気がしたので……」 「まあな」 「……すみませんでした」 「構わんよ。むしろお前が払った勉強代の方がずっと高かっただろうからな」  払ったというか、無理矢理払わされたというか……。しかも1回じゃ払えないほど高額で、返し終わるまでにどれぐらいかかるのもわからない。
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