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「……そう思うならもうチャラにしてください」
「残念だがそれはできない相談だ」
「……なんでですか?」
「『なんで』ねぇ。そういう話なら場所変えるか。それ飲み終わったら出るぞ」
グラスにはまだカクテルが残っている。それを慌てて飲み干して、会計の後、店を出た。
「ごちそうさまでした」
「そんじゃ行くか」
行き先を告げずに歩き出した井口の後を追う。どこか話ができるところに行くつもりなんだろうけど、こんな時間じゃ開いてるところなんて限られてるよな。
「どこ行くんですか?」
「ホテル」
振り返った井口の顔に浮かぶ不敵な笑み。ほとんど音になってないような声だったけど聞き間違いじゃないよな? そもそも普通の答えならわざわざ小声になる必要もない。
「さっきの話聞いてましたよね?」
「ああ。けど俺もできないって言っただろ」
「だからその理由を知りたいって言ってるのに、おかしいじゃないですか!」
「じゃあ今ここで話すか? なんで俺がお前とセックスするのか」
俺の目の前に井口の顔が迫る。いくら周りに聞こえたらマズいからってここまでする必要ないだろ。そもそもこんなに顔を近付けて、キスしてるなんて思われでもしたらどうするつもりだ。
「こんなところで、バカですか⁉︎」
「な? 人前でできる話じゃないだろ?」
「だからって……!」
「それにお前、俺に借り作ったままじゃ嫌なんだろ? だったら今から返してくれよ」
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