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──ああ、そういうことか。高い勉強代を払ってもなお、俺は何も学べていない。そうだよな、ただ俺と一緒に飲んで、俺の分まで支払って、あいつになんのメリットがあるっていうんだ。それに気付けるようにならなければ、きっとこれからもこうやって『勉強』は続いていくんだ。
どうせ「バーでのマナー」なんてのも、ありもしないものをそれっぽくでっちあげただけなんだろう。俺が無知なのをバカにしたりしないのは優しいからなんかじゃない。その方が騙すのに都合がいいだけだ。
ほんの一瞬でもこんなやつを信用して、楽しいなんて思ってしまった俺がバカだった。
「──わかりました」
そう答えた後、何も言わずにもう一度歩き出した井口の後ろを、俺もただ黙ってついていった。
ホテルまでの道中、井口は一度も振り返りもしなかった。俺が逃げ出すかもしれない、とか考えないのか? 必要ないか。そうならないように、なってもいいようにいくらでも手は打ってあるんだろうから。
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