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「それと俺の名前、井口な」
今更あんたの名前なんて聞く理由もないし、興味あるはずがないだろう。あと数分でここを出たら、多分もう思い出しもしない。
「……そうですか。もう帰りましょう。色々迷惑かけてすみませんでした」
「ちょっと待て」
ベッドから立ち上がったところを引き止められた。
ズボンのポケットから取り出した手帳を開き万年筆を走らせている。そしてちぎり取ったその紙切れを掴んだ腕を俺に向かって伸ばした。
「これ俺の連絡先。パソコン用のメールだからすぐには返せないと思うが──」
「結構です、もう会うつもりありませんから」
「そうか? じゃあ俺から会いに行くか。名前は笹原想、歳は25か、俺が37だからちょうど一回り違うんだな。で住所が──」
手にしたスマホを見つめながら俺の住所を読み上げている。名前や年齢はともかく、まさか住所まで話したのか?
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