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(一)
「こんちは、先輩。来ましたよ」
「渋沢」と表札の出ている脇の古い鉄の扉を開けて、足柄謙吉は部屋の中へと声を投げ入れた。
「おう、来たか。上がってくれ」
奥から渋沢栄一郎の声が聞こえた。
それを聞くと謙吉は「お邪魔します」と言ってから靴を脱ぎ、自由のあまりきかない右足から玄関に上がった。
近所のコンビニで買ってきた五〇〇ミリリットルの銀色のパッケージの缶ビールが入ったビニール袋を掲げて「差し入れです」と言いながら部屋の中に入った。
(続く)
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