笑顔の理由

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相変わらずの威厳と余裕を撒き散らしながらこちらへ向かって来たその男に、ヒナが声をかける。 「アーロン!変わりなかった?」 愛想笑いの欠片もないこの男にもヒナは天使のような笑顔を見せる。 「ああ」 怒ってんのか?機嫌悪いのか?と聞きたくなるような顔で一言答える。 「見て!アーロン!木の芽がこんなに大きくなったわ!お花もね、また種類が増えたみたい!」 諦めない心、とでも言うべきか… いや、とうの昔にそんなものはとっくに諦め、すでに境地に至っているのかもしれない。 「そのようだな」 そう言ってヒナが結び直した紐に視線を送る。 「もう、終わったのか?」 「いや、今来たところだ」 アーロンの問いにエレンが答えると、各々がおもむくままに敷地内に広がる。 毎日警備のものが点検しているのだから、草花の成長以外何の変わりもないのだろう。それでもこうして集まった時には、点検という名目の元、なんとなく敷地内を歩く。さすがにもう草の根をかき分けてまで何かを探すというでもなく、ただ、みんなで敷地内を歩くのだ。 しばらくするとアーロンが座りだし、ヒナとエレンが楽しそうに何かの花を見ながら話し始める。 「そろそろ行きますか」 カイザルのその声に、俺達は敷地を後にした。 ぐるりと囲われた塀の上に天井はなく、近くの建物から見下ろせば、緑の中の木らしき物まで見渡せた。 「揃ったか?それでは再会を祝しかんぱ~い!」 エレンの声に合わせ飲み物のグラスを持ち上げる。 ここからは近況報告と思い出話の会だ。 最近こんなことが起きたやら、あの時こんなことがあった等語り合うのだ。もちろんアーロンはかつての旅の最中と同じで、まるで耳が故障してるんじゃないかというほど無反応だ。 長い間会わなかったわけでもないのに話は尽きない。だが、旅の最終地点に居るというのに、その時の話が出ることはめったにない。 …はずだった。 ちょうど1年ということもあるのか、いつもはあまり話さない旅の後半の話がやけに多い。 俺は社交性のある顔で相づちを打ちながら、暗く沈んでいく気持ちに耐えていた。が、 そろそろ限界だ 俺自身からの救援信号が灯った。 「少し食べ過ぎた。その辺歩いてくる」 困った人ねとでもいうようなヒナの笑顔を確認し、そう言って席を立った。
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