笑顔の理由

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「ずいぶん…都合の良すぎる解釈じゃないか?」 俺達が救われる為の解釈に仕立て上げているようにしか聞こえない。 「そうかもしれん…が」 ほんの一瞬視線だけで辺りを見回し、これまでより少し籠った声で続けた。 「都合がいい悪い、人の気持ちがどうのこうのに関して、あいつに言われる筋合いはない」 そして、ふんっ、とそっぽを向き、よくあいつの迷惑を被っていた時のような顔をしていた。 そうだった。 あいつだけが、この男から威厳も余裕も剥ぎ取ることの出来る唯一の人物だった。 一瞥するだけで命の危険を感じさせることが出来るこの男が、あいつの居ない所でこそこそと愚痴を言って鬱憤を晴らしているかのようなその姿はなんだか笑えて 「……ぶはっ」 思わず吹き出してしまった。 確かにこいつが言うことはもっともだ。あいつにだけは、そんなこと言われたくない! 俺がこの1年何度も思い返しては後悔と無力さと……どす黒い塊を少しずつ大きくしていたというのに、この男はどこまでもあいつの自由奔放さにいまだに迷惑被っていたのだ。そう思うとなんだか笑えてきた。 「ふっ」 自分ではどう考えてもどうにも出来なかった感情。都合が良すぎる1つの仮説。だが 、それはこの男の迷惑そうな顔を通し、それでいいかと何故だか思わせてくれた。それは一気に俺の黒い塊を溶かしていく。 「くっくっくっくっ」 笑いが止まらない。 一番何を考えてるのかわからないこの男は、いまだにあいつの被害者となり得るのだ。 何故だか今になって、楽観的なあいつらと違い、すぐに考え込んだり、悩んだり、深く反省することが多かった俺を、楽しそうに見ていたあいつの気持ちがほんの少しだけわかる。 あいつめ 笑いを堪えながら見上げると、いかにも面倒臭そうな顔がそこにあった。俺のせいで不機嫌になってるのかと思うと、また笑いが込み上げてくるのを抑えながら言った。 「アーロン。ありがとな」 益々眉間の皺を深くしながら、一度こちらを向きすぐに視線を逸らした。 真実がわかったわけではない。 事実が変わったわけでもない。 けれども、俺の世界は少し変わったようだ。 「なあ、そろそろ戻ろうか」 「ああ」 そう言って立ち上がり歩き出した。 一瞬アーロンの視線が俺の脚?辺りを捉える。 そして、 「はあ。お前、未だに遊ばれてるのか」 そう言った。 相変わらずわけが分からず、さっきの視線の先辺りを見てみると、 ?! 俺の左の腰から太もも辺りにかけて、草の芽とも花の蕾とも見えるような物が、ボツボツと子供がイタズラをしてくっ付けたかのように幾つも引っ付いていた。 塀の隙間の草の辺りに腰を降ろしてたのが悪かったのだろう。 どうやら服の繊維にくっ付きやすいようで、手で払うだけでは取れない。 くそっ 変な体勢で格闘しながら取っていると、 「先に行くぞ」 とアーロンが歩き出す。 先程の言葉を思い出す。 「はあ。お前、未だに遊ばれてるのか。」 なんだかまた笑えてきて、深く息を吸い空を見上げた。 どこまでも広がる、どこでも繋がっているような、晴天中の晴天を見て、もう一度深く息をして歩き始めた。
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