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「京の都に行ってくる」
俺はいつものように、売り物のかんざしや髪飾りを行李に入れ、背負った。
都に住む貴族の女性たちを相手に、装飾品を売るのが俺の仕事だ。
「与吉さん、気をつけて」
妻のサトが見送ってくれる。
しかし、今回はどことなく様子がおかしかった。
「どうした、サト」
「なんだか、与吉さんにはもう会えなくなるような気がして……」
「サトらしくないな。いつもの行商だよ。髪飾りを全部売ったらまた帰ってくる」
俺はそう言って、サトを抱きしめる。
しかし、実のところ俺自身も、今回の行商に得体の知れない不安を感じていた。
それはなぜなのか、俺には分からなかった。
俺は笠をかぶり、あごの紐を締めた。
「また、会えるよ。心配するな」
「……うん」
心配そうにうつむくサトの様子に、やはり違和感を覚える。
これまでに、京の都への行商は何度も行ってきた。
今回もきっと、大丈夫だろう。
俺はそう言い聞かせ、旅立った。
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