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休憩しようと切り株に腰を下ろしていると、俺と同じように行李を背負った男がやってきた。
身なりから察するに、同業者だろう。
男は声をかけてきた。
「やあ、どちらまで?」
「京の都に行くところです」
「そうですか。私も京に帰るのですよ。旅は道連れ、世は情け。このあたりは山賊も出てきますし、一緒に行きましょう」
男の名は藤次郎。
京に住む着物の行商人であった。
藤次郎は、地方ですでに着物を売り終え、京の家に帰るところであった。
俺と藤次郎は、京に向かって一緒に歩き始めた。
売るものは違っていても、同じ行商人だ。
お互いの商売の苦労話で盛り上がり、あっという間に意気投合した。
「こんなものを売っているんですよ」
俺は背中の行李を下ろして、中から一つ、かんざしを取り出した。
あれ? このかんざしは……
この赤いかんざしは、サトがいつも付けているものだった。
これは売り物ではない。
なぜ行李に入っているのだろう。
かんざしには、手紙が添えられていた。
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