赤いかんざし

3/16

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
休憩しようと切り株に腰を下ろしていると、俺と同じように行李(こうり)を背負った男がやってきた。 身なりから察するに、同業者だろう。 男は声をかけてきた。 「やあ、どちらまで?」 「京の都に行くところです」 「そうですか。私も京に帰るのですよ。旅は道連れ、世は情け。このあたりは山賊も出てきますし、一緒に行きましょう」 男の名は藤次郎(とうじろう)。 京に住む着物の行商人であった。 藤次郎は、地方ですでに着物を売り終え、京の家に帰るところであった。 俺と藤次郎は、京に向かって一緒に歩き始めた。 売るものは違っていても、同じ行商人だ。 お互いの商売の苦労話で盛り上がり、あっという間に意気投合した。 「こんなものを売っているんですよ」 俺は背中の行李を下ろして、中から一つ、かんざしを取り出した。 あれ? このかんざしは…… この赤いかんざしは、サトがいつも付けているものだった。 これは売り物ではない。 なぜ行李に入っているのだろう。 かんざしには、手紙が添えられていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加