窓際部署第六分室

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窓際部署第六分室

 2030年、六月二十日。  その日、世界全体に常識ではあり得ない現象が多発した。  突如として空間に虚空が開いたのである。  前触れもなく現れた虚空に人々は恐れおののき騒ぎ立て、警察や自衛隊に助けを求めた。  しかし虚空は特に何を起こすでもなく、ただただそこに存在するのみ。  無害だった。  そして発生からおよそ数時間、虚空は何事も無かったかのように消滅。  世界は元通りに戻った、かに見えたがその1ヶ月後、また虚空は現れる。  だが日本政府とて座していただけではない。  次に現れた時を考え、対策を取っていたのである。  虚空が現れるや否や、自衛隊や警察が出動。  虚空を中心に規制を張り、調査に乗り出した。  さりとて、虚空はまたすぐに消えてしまう可能性がある。  それを鑑みた政府は、前々から計画されていたある作戦を決行する事とした。  ドローンによる虚空内部調査を。  その浅はかな行いが何を起こすかも知らずに。  始めこそは順調かと思われたドローン潜行。  しかしある瞬間、ドローンが破壊されてしまう。  当然ながら常時送られてきていた映像を解析。  するとそこには驚くべき存在は映っていた。    怪物。  そう形容する事しか出来ない異常な生命体がドローンを破壊する映像を人々は目撃した。  否、自らの目で見る事となった。  後の世で「異界獣(カリオン)」と呼ばれる、圧倒的な力を持つ化物を。  虚空から現れしカリオンは、人々を蹂躙する。  たった一匹のカリオンが。  人々も市民を守ろうと応戦するが、カリオンには銃も刃も何一つ効かなかった。  結果、自衛隊、警察は共にほぼ壊滅。  生き残った両陣営は撤退を余儀なくされ、東京都の封鎖を決定したのであった。  数多の市民を残して。    それからおよそ五年経った某日。  とある青年が、とある場所へと赴こうとしていた。  その場所とは、生き残った市民で設立された民間警備会社ファントムライン。 「おい、百草。 この茶、苦いぞ。 替えてくれ」 「それしか無いので文句言わないでくださいよ、香道先輩。 私たち末端分室にはそんなしょぼい茶葉しか支給されないんですから、我慢してください」 「ちっ」  ──の、末端分室である第六分室。 「そういえば、先輩。 今日から新人くんが入るんですよね。 いつ来るんですか?」 「ああ、もうそろそろ来るだろう。 なにせ奴は真面目だけが取り柄の……ふっ、噂をしていたら聞こえてきたな。 神は神でも貧乏神に好かれた阿呆の足音が」  女子二人しか居ない窓際部署の扉をその男はゆっくりと── 「どうも初めまして、第六分室の皆さん! 春日(はるひ)小太郎、只今推参致しました! つーことで、以後よろしくっ!」 「え、えーと…………室長? あれが噂の新人……なんですか? なんかバカっぽい気が……」 「……はぁ」  第六分室室長、香道時雨(こうどうしぐれ)。  銀髪をポニーテールに結んだ少女は、小太郎の顔を見るなり溜め息を吐いた。  また面倒な阿呆を背負い込んでしまったなと。
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