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「な……なんですか、その顔は。 何か言いたい事でも?」
「いんや、べっつにぃ? ただ、春だなーって」
「んなななななな……!」
難を逃れた事で、ようやくらしくなった第二分室の二人は姦しい声をあげる。
きっと、命が助かった安堵からだろう。
だが此処は侵食領域。
魔の領域だ。
未だ高尾山は異界に飲み込まれた地である以上、油断は禁物。
虎視眈々と侵食領域は侵入者を狙っているのだから。
「いきなり何言い出すんですか、きららさん! 私は別に……!」
「あははは、ごめんごめん。 だからそんな焦んないで…………」
ドォン。
「「────ッ!」」
いきなり目の前に落ちてきた二柱の光に、二人は目を見開く。
その額には、その頬には、冷や汗が流れている。
なにしろ今しがた落ちてきたのは、自分達の命を何度も危機にさらしてきたあの憎き極光。
ゼフィアンサスの雷だったからだ。
「グルルルル……」
落ちた落雷の衝撃で巻き上がった爆煙の中から、ゆっくりと、一歩ずつあいつが……あいつらが現れる。
「冗談……でしょ。 なんで……なんでこいつがまた……! それも今度は!」
「そ、んな…………二体もなんて……」
絶望を感じざるを得なかった。
何故なら、あれだけ苦労して倒したゼフィアンサスが二体も現れたのだから、絶望しない筈がない。
しかも今回、小太郎は戦えない状況。
悪夢以外の何者でもないだろう。
たが向こうからしたら、二人はただの敵。
異界獣が好む生命エネルギーを保有するただの獲物に過ぎない。
「くっ……!」
これが現実、これが侵食領域の理。
この場所では人間は喰われるだけの存在に過ぎず、彼らの糧になるしか未来はないのだ。
「いやぁぁぁぁっ!」
高質量の雷弾が吐き出された瞬間、二人は死を覚悟し、目を瞑る。
「………………?」
だが待てども待てども、死の痛みは襲ってこない。
不思議に思った二人は恐る恐る目蓋を────
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