三割程の本気

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「え……?」  視界が開けた二人の瞳に映るは焔。  焔の壁が彼女達の前に立ちはだかっていたのである。 「なに……これ。 炎の壁?」 「この異能、もしかして……!」  ゼフィアンサスの雷弾を防ぐ焔を形成する能力など、彼女以外あり得ない。  きららがその人物を脳裏に浮かばせた直後、彼女は二人の前に降り立った。  灼火の刀を携えて。 「よく耐えたな、新人ども。 あとは私に任せておけ。 この灼火の魔術師に、な」  死の間際に現れた者の名は、香道時雨。  生体戦略級兵器と同等の力を保有すると言われる、異界獣以上の化物。  灼火の魔術師その人であった。 「………………」  気を失った部下を一瞥した香道は、一瞬フッと微笑み、 「ここまでよく守りきったな、小太郎。 お前は自慢の部下だよ」  言いながら目付きを鋭くして、ゼフィアンサスに切っ先を突きつけた。 「さて……では始めようか、化け物ども。 生死を賭けた殺し合いって奴を。 だがその前に一つ言っておいてやる。 今日のわたしはすこぶる機嫌が悪い。 だから最初から本気でかかってこい。 すぐに死にたくなければな」 「グゥゥゥゥッ」  言葉は通じていない筈だが挑発された事は判っているのか、ゼフィアンサスは唸り声を響かせる。  それに呼応するよう香道が刀を構えた刹那。  花音がライフルを手に──── 「一人じゃ危険です! 私も援護を……」 「要らん。 わたし一人で事足りる」 「で、でも相手はあのイレギュラーですよ!? 一人はいくらなんでも無謀……!」 「要らんと言ったのが聴こえなかったのか。 お前程度の腕では足手まといにしかならん。 大人しく見ていろ」 「……っ」  香道の頑なな拒絶に花音は声を詰まらせる。  その様子を見ていられなかったのか。  それまで黙っていたきららが花音の肩に手を置き、こう呟いた。  
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