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「花音ちゃん、この人に任せておけば大丈夫だから、あたし達は邪魔にならないよう下がっておこ?」
「……は、はい。 わかりました」
「先輩、あとよろしく」
「ああ」
花音の肩を抱き、遠ざかっていくきららの声にぶっきらぼうな返事をした刹那。
前方から電気の迸る音が聞こえてきた。
「…………」
見ると開いた大口へと雷が集まり、徐々に肥大化していく途中だった。
あの様子だと後ものの数秒で雷弾と化し、香道へ向かってくるだろう。
しかし、その雷が発射される事はない。
「爆け、カグツチ」
何故なら、雷を発射する直前、香道が右のゼフィアンサスに急接近。
小太郎とは比べ物にならない速度と一分の隙もない動作で、ゼフィアンサスの横腹に一閃を見舞う。
あれだけ三人が苦労して倒した同形の敵を、香道は一瞬の内に爆炎で包み跡形も無く消し去ってしまった。
その間わずか一秒。
「ガアアッ!」
仲間が倒され一瞬怯んだゼフィアンサスだったが、隙だらけの背中を好機と見て一気呵成に飛び掛かる。
が、時既に遅し。
「灼火の灯、紅蓮の徒。 祖は焔の精にし、世の理を術し者。 来たれ、大火の魔神────灼熱の王」
香道が召喚した、炎を司る精霊カルヌン。
焔によって形成されしその巨人の一凪は、ダイヤモンドすらも易々と溶かす程。
そんなカルヌンから放たれた一振の拳は、いとも簡単にゼフィアンサスをこの世から抹消した。
「す、凄い。 これが……」
戦いが終わった戦場に残されたのは、カルヌンの残り滓である焔の桜吹雪と、ゼフィアンサスが残したホタルのように漂う虚空エネルギーのみ。
カルヌンの業炎はあれだけ降っていた雨すらも蒸発させてしまったようだ。
雨はいつの間にか上がり、訪れた静寂が花音の声すらもかき消してしまう。
そんな常軌を逸した結果を軽々と為したその人物を呆然と眺めていた花音に、きららが囁く。
凄いでしょ、あの人。
あれが第六分室の室長、香道時雨。
10年前、東京に住む全ての人を守りきった正真正銘の英雄の一人なんだよ。
まっ、あれで本気の三割程度だと思うけどね────と。
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