こころはたまご

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授業参観、運動会、学芸会。 全ての行事において、いつき君の父親と顔を合わせることはなかった。 いつき君自身も、それが当たり前と言わんばかりに、気持ち悪く感じるほど冷静に全てをこなしていた。 その中でも、一際引っかかったのが、二学期終わりに行なった、父親との個人面談だった。 教室には 椅子に座った私が一人。 四時四十五分。 時刻きっかりに鳴り始めた携帯電話をスピーカーにして 保護者は音声だけという、異例の形での面談を行なった。 「時間は、最大で十五分しかありません。」 これが、彼の父親が初めて口を開いた言葉だった。 声は若いように聞こえた。 しかし 言葉の周囲では常に、ガヤガヤという、いかにも会社にいますという雑音が邪魔をする。 「いつきは、学校で他の人に迷惑をかけていませんか。」 「ええ。授業態度も良好で、成績も上位です。周りをよく見た行動もしてくれて、本当に良く出来たお子様ですね。ただ…」 「ただ?」 「ただ、やはりクラスの子たちと馴染めていない部分がございます。転校も多く、色んなことを我慢してきたからかと考えています。お忙しいのはわかりますが、もっとお父様からも何か悩みがないかなど、いつき君と会話をするお時間を作って頂ければと考えております。」 「私は、朝五時から夜一時まで、仕事で家を空けています。残念ながら、そういった時間を取ることが出来ません。ですので、もし先生が何かお気になられることがあるのでしたら、先生の方でいつきと話をしてあげてください。」 「いえ、そうではなく、私よりも実のお父様と話をすることに意味がありまして…」 「いつきも、もう大人に片足を踏み入れている年齢です。自分がしたいことなど、いつきの自主性を尊重することが大事だと考えております。」 「ですが、小学四年生はまだまだ子供です。しかも、これからさらに多感な時期を迎えた時に…」 「では、そういったことも踏まえまして、先生の方で何卒フォローをしてあげてください。では、私は仕事に戻らなくてはなりませんので、この辺で失礼致します。」 「お父様、まだお話したいことが…」 ツー、ツー、ツー… 〇〇の方で…という人間に ろくなやつはいない。 … 私が今でも感じている 小さいけど 絶対に忘れたくない 人生の教訓。
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