7人が本棚に入れています
本棚に追加
授業参観、運動会、学芸会。
全ての行事において、いつき君の父親と顔を合わせることはなかった。
いつき君自身も、それが当たり前と言わんばかりに、気持ち悪く感じるほど冷静に全てをこなしていた。
その中でも、一際引っかかったのが、二学期終わりに行なった、父親との個人面談だった。
教室には
椅子に座った私が一人。
四時四十五分。
時刻きっかりに鳴り始めた携帯電話をスピーカーにして
保護者は音声だけという、異例の形での面談を行なった。
「時間は、最大で十五分しかありません。」
これが、彼の父親が初めて口を開いた言葉だった。
声は若いように聞こえた。
しかし
言葉の周囲では常に、ガヤガヤという、いかにも会社にいますという雑音が邪魔をする。
「いつきは、学校で他の人に迷惑をかけていませんか。」
「ええ。授業態度も良好で、成績も上位です。周りをよく見た行動もしてくれて、本当に良く出来たお子様ですね。ただ…」
「ただ?」
「ただ、やはりクラスの子たちと馴染めていない部分がございます。転校も多く、色んなことを我慢してきたからかと考えています。お忙しいのはわかりますが、もっとお父様からも何か悩みがないかなど、いつき君と会話をするお時間を作って頂ければと考えております。」
「私は、朝五時から夜一時まで、仕事で家を空けています。残念ながら、そういった時間を取ることが出来ません。ですので、もし先生が何かお気になられることがあるのでしたら、先生の方でいつきと話をしてあげてください。」
「いえ、そうではなく、私よりも実のお父様と話をすることに意味がありまして…」
「いつきも、もう大人に片足を踏み入れている年齢です。自分がしたいことなど、いつきの自主性を尊重することが大事だと考えております。」
「ですが、小学四年生はまだまだ子供です。しかも、これからさらに多感な時期を迎えた時に…」
「では、そういったことも踏まえまして、先生の方で何卒フォローをしてあげてください。では、私は仕事に戻らなくてはなりませんので、この辺で失礼致します。」
「お父様、まだお話したいことが…」
ツー、ツー、ツー…
〇〇の方で…という人間に
ろくなやつはいない。
…
私が今でも感じている
小さいけど
絶対に忘れたくない
人生の教訓。
最初のコメントを投稿しよう!