毎朝の楽しみ

1/1
前へ
/1ページ
次へ

毎朝の楽しみ

 僕は佐藤たけし。24歳。今年大学を卒業して少し大きい企業に入った。  僕の毎朝の楽しみは通勤の電車で会える可愛い女子高生。  名前も知らないけれど、女子高の制服は分かる。この近所では有名なお嬢様学校。清泉女子高校の制服だ。  難関校だという事もあるのだろうか。他の清泉女子高校の制服を着ている女子高生は皆、黒髪を後ろで一つにくくるか、肩に届かない長さにカットされている。そして、みな電車の中ではスマホを手にしていない。今時珍しい。  そして、皆、地味な顔立ちなのだ。昨年までの受験勉強で外にも出なかったのだろう。青白い顔色に笑顔の一つもなく、同じ制服の子となんとなく固まって入るのだが、誰も電車の中でおしゃべりもしない。もう自由になったとはいえ、罹患防止の為か全員マスクをしているの口元は分からない。  その中でひときわ目立つ可愛い清泉女子高校の制服を着る女子高生がいた。  ハーフなのだろう。栗色の髪は少しウエーブがかかって、皆と同じように後ろで一つにくくって入るのだけれど、ふんわりと軟らかく見える。  顔色はやはり他の子と同じように白いのだけれど、黄色人種の青白さと違い、透き通るような白い肌の色をしている。  そしてやはり誰とも話してはいないのだが、眼だけでも笑顔なのが分かる。長いやわらかそうなまつ毛に覆われた目はいつもぱっちりと開かれており、時折近くの友人なのだろう、同じ制服の女子高生に少し目くばせするように目を細めて少し肩を震わせる。何か暗号のようなものがあって笑いあっているのだろうか。  大人になる少し前の瑞々しい体つきが制服の上からでもわかってしまう。他の友人より少し大きく隆起した胸の線。制服のスカートが始まる前の細い括れたウエスト。規定通りの長さのスカートから延びるほどよく筋肉のついた足。きゅっと細い足首。  美しい。  都心より少し離れているので、電車の中もぎゅうぎゅう詰めではない。されとてすいていると言うのには程遠い。どうしても、人と人は触れ合ってしまう程度の混み具合だ。  佐藤たけしは毎朝、この彼女の顔を見るために同じ電車の同じ車両に乗ることにしている。  その彼女がこの1週間くらい、顔を曇らせて体を捩らせているのをたけしは少し離れた所から見ていた。 『まさか。痴漢か?』  あれだけ可愛い彼女なのだ。痴漢されるのは当然と言えば当然だ。  佐藤たけしは翌日から、思い切って彼女のいつも乗る場所辺りに乗ってみた。  いた。いつも遠くから見ていた彼女は思いのほか背が低く、たけしの肩にやっと頭が届くくらいだった。  それでも人が3人ほど間に入る辺りにたけしは陣取った。  彼女がまたおかしな様子を見せ始めた。  たけしは彼女の方に向き直り、人を押しのけて近づき、彼女の可愛い制服のスカートに手を潜らせている男の腕をつかんだ。  その瞬間、たけしは 「また会えたね。」  と彼女に囁いた。  半分涙を浮かべていた彼女はおどろいたようにたけしを見つめた。  そして、さけんだ。 「嫌!この人痴漢です。」  指した指はたけしの顔に向けられていた。  たけしに腕を掴まれた男はこれ幸いと、たけしの腕を振りほどいてざわめく車両から去って行った。  一方、たけしは彼女を救ってあげたのに、冤罪で捕まってしまった。  彼女は警察に話した。 「あの人、今は多分社会人ですけど、大学の時にずっと私の事痴漢していたんです。その頃は、私はまだ中学生でどうしたらいいかわからなかったけど、ずっとこの車両にいたのは今年になって知っていたんです。」  そんなわけで警察も何も疑うことなくたけしをそのまま逮捕していった。  たけしは警察の事情聴取で懸命の言い訳をした。 「俺は、痴漢を捕まえたんだ。痴漢は現行犯だろう。去年の痴漢は関係ないじゃないか。」  警察は多分、今日痴漢をしたのが佐藤たけしなる人物ではないと思ったが、現行犯として捕まえられたのはラッキーなことという事で佐藤たけしを今回現行犯で逮捕した。そして、過去の痴漢を自供したことで罪は重くなった。  彼女の近辺にはその後、警察の潜入捜査が入り、今回痴漢をした男も懲りずに再度彼女に近づいたことで現行犯逮捕された。  皆様。痴漢は犯罪です。許される行為ではありませんのでご注意を。 【了】  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加