見習い破却士と音楽堂

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見習い破却士と音楽堂

孵化するなり彼女は舞台から客席に咆えた。「えー! また親ガチャ失敗?」 濡れ羽色の前髪に支配人の苦悶が映る。「そうは仰いましても、ウフ様」 「いいからとっとと(土に)還⦅かえ⦆して!」そっぽを向く。 ぬめった背中がスポットライトを浴びて艶めかしい。 「お値段以上の仕事をしてもらわないと困ります」 支配人は舞台の袖で汗を拭きふきなだめた。客席のブーイングが高まる。 「はぁ? 創造性もへったくれもないわ。わたし、還る!」 ピストルで頭を撃ちぬこうとしたところへ歌姫のアーニャが立ちふさがった。 「お雌鶏⦅かあ⦆さまに迷惑がかかります!」 訴状の束を見せられてウフは口元をゆがめた。『破却士を破却せよ!』 仮処分申請の内容は偏見と憎悪に満ちていた。派遣された世界線破却士は公害である。外界よりの侵略者である。ただちに受け入れを中止せよ。 「どえらい嫌われようだわ」 ウフは本気で還りたくなった。先代のウフより状況は悪化しているという。 「そこを解決していただきたく」 支配人は平身低頭した。「課題消化でなく『破却』するためにいるんだけど」 ウフは生まれて初めて胃痛を感じた。とりあえず親鳥に迷惑はかけられない。 破却士はこの世界線にまかれた厄介の種を処理する任務を請け負っている。 手段が軟着陸か不時着か状況による。ただ後者が圧倒的に多いため破却士と呼ばれている。 「じゃ、この世界をとっとと破却すればいいのね」 ウフの投げやりな態度に「それは困ります」と支配人がいさめた。 「じゃ、どうすればいいの?」 「とりあえず服を着てください」 アーニャがショッキングピンクのビキニ上下と丈の短いドレスを渡した。 踊り子の衣装しかないという。ウフは悪態をつきながら身にまとった。 「世界線破却士たちの仕事は、世界に存在する危険な要素や、歴史の流れを変える可能性がある存在を破却することです。しかし、彼らの仕事は常に厳しいものであり、破却する対象が人間である場合には、葛藤を抱えることになることもあります」 母鳥は何の示唆も与えず一方的な説教だけで通信を切った。 「ねぇ、楽府⦅がふ⦆。本当に建設計画を破却できないの?」 「滅相もありまっせん!ウフ様」 支配人は青ざめた。楽屋に貼られた完成予想図は壮大なものだ。 うましかシンフォニーホールは類を見ない沈黙を演奏する大舞台だ。数万人規模を一堂に会し雄大な静寂を舞台と一丸となって創り出す。無音の殿堂だ。 建設には現地世界線政府の財政が傾くほどの予算を要した。 なぜこんなものが必要か。国民から疑問と抗議が殺到した。 存亡に関わるからだ。周辺世界の「厄介の種」を当地が全て引き受けている。 しかるに感謝されるどころか嫌われる理由は深刻な世界線環境問題にある。 破却か存亡か。理不尽で難しい選択を迫られた政府は奇策に打って出た。 再処理施設の建設である。あらゆる世界線から破却士を誘致する。 それだけでなく「問題の焼却炉」を計画した。 それがうましかシンフォニーホールだ。 処分場の中央に厄介の種やあだ花を山積し周囲を沸点の低い人々で囲む。 そして憎悪に点火すればたちまち爆発炎上するという仕掛けだ。 後は野となれ山となれ。きれいさっぱり問題解決というわけだ。 「試験公演はウマく行ったんです」 楽府は録画を見せてくれた。 うましかシンフォニーホールに名だたる炎上系配信者、モンスタークレーマーが呼び集められ非難ごうごう。客席は暴動が起こる寸前まで荒れた。 そして扇動者が壇上で煽るとホールに怒号が渦巻いた。 痛烈な批判や野次が飛び交い一線を越えた。 すると荘厳な罵詈雑言が静寂した。 シ~ン。全員がたかぶるためにキムチ鍋を喫食していたが七味唐辛子も真っ青の御通夜状態に陥った。 「まさに大爆死。死因⦅シーン⦆!」 楽府が大仰な身振り手振りでアピールする。ウフの目は冷ややかだ。 「あ、ソレ!死因~♪」 バンザイしながら腰を振る。 「それシカ芸がないわけ?」 「申し訳ございません」 「いいよ。わたし、次は土に還るから」 ウフは釘をさすと打ち合わせを続けた。 誰もが成功を信じた。 こけら落としは盛大にこけた。 「この国は昔からこうなんです」 足を引っ張る者がいるとアーニャがいう。 日本書紀が始まる世界線は「寒ブリ亜細亜時代」という小氷期を経て偏狭な奇人変人を輩出する悪魔の空間となった。 極端な他力本願排斥と自己責任神話が台頭した。 その結果「一億総奴隷階級だ!火の玉魂で地に足のついた生活をしよう」という標語を掲げて国は国家建設に突き進んだ。 ここまで聞いてウフが言い放った。 「厄介の種に好かれる理由がわかったわ」 「いじめないでください。みんな必死だったんです」 楽府が黒歴史の説明を続けた。 これに異を唱えたのが労組系政治団体の日本草鞋草履衆である。 「地道といいながら土踏まずが地についてない階層がいるじゃないか」 ゼネストを敢行して滅私奉公至上主義の国を揺るがした。 彼らは格差問題を食卓にあげた。 粗食であるきつねうどんに玉子を入れる行為と、たぬきそばに胸肉ハムをトッピングするプチ贅沢。どっちが罪深いか議論を焚きつけた。 国論は二分しとうとう戦略兵器で互いに恫喝する事態に発展した。 しかしせっかく「卵」があるのだから代理戦争で決着しようと纏まった。 巨大なお稲荷さんと保食神が取っ組み合いの大げんかを始めた。 それは太陽をゆるがし電磁ビーム砲が空を焦がすガチ戦争になった。 そいつのせいで地殻が海没してえぐり取られた部分が宇宙隕石になった。 それに向かって吼えたのが戦後の混乱に乗じて国を牛耳った狼ラーメン党の開祖と言われる。 彼らは我こそクリーンな裸の王様だと主張して選挙に勝った。 この国は偽善に満ちている。家庭には不倫が横行し一歩外に出れば胎児まで他人の餌食になる。そんな社会は蹴り倒して当然だと説教している。 そして弱者優遇だの逆差別だのいわれるなかヘリコプターマネーをばらまけば結果平等が約束される。そんなものは思考停止だという反対論をおしきって財政出動した。それがうましかシンフォニーホールの建設につながった。 ラーメン党政権はゆりこかごから墓場まで戦場の屍で踏み固めた地獄の黙示録だと反政府勢力は揶揄する。 「政府は頭が腐っているというけど腐るほどの脳が残っているのかしら」 とウフは批判した。 「それで、どーしてくれるの?」 歌姫アーニャが楽屋から客席をのぞいた。 狼ラーメン党政権に対する民衆の怒りが渦巻いている。 「ブーイングコンサートは失敗しました。もう詰んでますよ」 「うっさいわね。楽府」 ウフはスカートのすそなどお構いなしに胡坐をかいて考えていた。 スカスカの延髄で条件反射のみの生存しているにしても自分がノーテンホワイラーであることぐらいは蓑虫でもわかる。 どうして気づかないのだろう。 とても悲しい事だ。「仕方ない。世界線の部分破却を開始します」 ウフは呪文を唱えた。 仮処分命令から三日。 「こちら横浜市郊外の建設現場です。豪快なうなりをあげて重機が山腹を削削り取っております」 ホール所属ミュージシャンたちの上告が実って建築許可が下りたのだ。しかし、そこは横浜郊外にある建設現場。その工事風景はまさに壮観であった。 「おい! そこの君!」 突然声をかけられたのは一人の作業員。彼は作業を止めて振り向く。するとそこには、威風堂々とした雰囲気を漂わせる中年男性の姿があった。「君は……何という素晴らしい肉体をしているんだ! 実に見事な筋肉だ!」 男は感嘆の声をあげながら、その鍛え上げられた身体へと近づいていく。 「えっ? あの?」 「君のような男がいるとは思わなかったよ。是非とも私の下で働いて欲しいのだがどうだ」 声をかけたのは宗教法人稲荷の勧誘員だ。彼らは狼拉麺一族に多大な呵責があったのだ。 彼らが守護神の一人、保食神が日本草履衆と闘った際にホールを陰謀結社の巣窟であると誤認識し破壊してしまった。罪のない神殿を誤解とはいえ潰してしまった罪は重く、こうして償いの為に普請をしているところだった。とにかく人手が足りない。「僕がですか?僕は繊細なピアノ弾きですよ。力仕事なんてとてもとても」「いいからいいから」 力づくで入信させようとしているとそこにヘリコプターが舞い降りた。「やめておきなさい」アルマーニのスーツを着た金持ち風の男が出てきた。「ピアノ弾きに肉体労働は無理だろう。君は本当に教団員なのかね?」男は怪しげな目つきで彼を見た。 第三話。世界征服を目論む秘密結社は今や日本草履衆の最大の敵となった。奴らは、あらゆる場所に出現しては、我々に悪行三昧を仕掛けてくる。我々の精神衛生上大変よろしくない。そこで我々は、秘密結社に対抗するための組織を作ることにした。その名も『秘密結社対策委員会』である。メンバーは全員、正義の心を持った選ばれし者達ばかりだ。 「おい、そこのお前達」 突然声をかけられたのは二人の作業員。彼らは作業を止めて振り向く。するとそこには、サングラスをかけ高級そうなスーツに身を包んだ怪しい男がいた。 「お前達は……何という素晴らしい肉体をしているんだ! 実に見事な筋肉だ!」 男は感嘆の声をあげながら、その鍛え上げられた身体へと近づいていく。 「えっ? あの?」 「君のような男がいるとは思わなかったよ。是非とも私の下で働いて欲しいのだがどうだ」 声をかけたのは宗教団体お稲荷の勧誘員だ。彼らは狼拉麺一族に大いなる責任があるとして再建工事に汗を流していた。しかし、彼らにはもう一つ重要な任務が課せられている。それは、ホールに潜む秘密結社『うましか革命軍』から聖なる殿堂を守ることである。 「君達がこのホールを守っていることは知っている。しかし、これ以上の破壊行為は許さない。おとなしく降伏するのだ」 「誰がするか!」 「そうか、ならば仕方がない」 そういうと、男は懐から拳銃を取り出した。石畳が割れて地下からせり上がってきたのは黄色いマントに茶色い草鞋、右手に鎌、左に稲穂を持った怪人である。「うぬ、何奴?」 スーツ姿の男が誰何する。「我は祭神なり!」そう叫ぶなり黄色いマントがヘリコプターに覆いかぶさった。 「うわ、なにするやめ」 ヘリコプターのパイロットがもがいていると、さっきのピアニストが助手席に乗り込んだ。「僕に任せてください」「こら勝手に操縦桿を触るな」 だいいち君は、操縦免許を持っているのか、とパイロットが問う。 「僕は戦場のピアニストですよ!」 青年が扮装を解くと迷彩服、腰にガンベルトを巻いていた。 「これなら大丈夫ですよね」 「そんなもの持っていてもダメだ!」 「どうしてですか?」 「いいから降りろ」 ヘリコプターは飛び立った。そして、彼はまたもや墜落した。今度は海に落ちたらしい。 「だから言っただろう!」 パイロットが叫んだ。 「あぁ、もうだめだ。おしまいだ。俺の人生もここまでだ」 絶望したパイロットは操縦席で頭を抱えて震えた。 そこへ、一人の男が歩み寄ってきた。 背広を着た中年男性で口ひげを生やしている。 その顔には笑みが浮かんでいた。 彼は宗教の勧誘員である。 工事現場を見つめながら、彼はつぶやいた。 ―――世界征服を企む秘密結社は今や日本草履衆の最大の敵となった。奴らは、あらゆる場所に出現しては、我々に悪行三昧を仕掛けてくる。我々の精神衛生上大変よろしくない。そこで我々は、秘密結社に対抗する組織を作ることにした。その名も、秘密結社対策委員会。 彼は、構成員達に呼びかけた。 その声は、拡声器を通して響き渡った。 「共に戦おう。我々の敵は音楽を破壊する者だ」 ――我々は団結して、奴らに対抗せねばならぬ その声は、建設現場を震わせた。 ――諸君、共に戦おうではないか その声は、建設現場の空気だけでなく心もを揺らした。 「どうしたんですか?先輩」 「ふと思った。昔は平和だった」 周囲は瓦礫の山である。しかし、それはまだ再建途中であり元の姿を取り戻そうと努力中だ。 瓦礫の隙間からは雑草が芽を出しているのが見えた。それは生命の萌ゆる瞬間であった。 うましかシンフォニーホールは一九七五年に完成したが二〇〇四年の台風十九号によって半壊し翌年解体されることになった。この日、再建されたホールはオープン前であるものの関係者以外は立ち入り禁止だ。 しかし、そんなことは関係ない。二人にとってうましかシンフォニーホールは何よりの宝だ。何よりも大切な場所だった。彼らはうましかシンフォニーホールのことが大好きだったのだ。 彼らはホール内を歩き回りながら思い出話をする。 あれは小学校低学年の頃の話だ。当時、彼らが夢中になっていた遊びはピアノの練習をしながら二人で交互に演奏をするというものだった。もちろん連弾である。その音色はまるでオーケストラのように美しい。彼らは練習の合間にお互いの演奏する曲を聴きあったりした。施設の片隅にあるピアノの前で寄り添いながら互いの曲を聴いた。時には手を握り合いながら、そして、頬をすり寄せあいながら……それは二人の至福の時間だった。しかし、ある日を境に彼らの時間は終わってしまった。施設が閉館してしまったのだ。 あの時は寂しかった。とても悲しくて仕方がなかった。うましかシンフォニーホールが無くなって、彼らは別々の道を進むことを余儀なくされた。しかし、今は違う。こうして、うましかシンフォニーホールに戻ってこられたのだ。二人は嬉しくて仕方なかった。これからはずっと一緒だ。たとえ、離ればなれになったとしてもこのうましかシンフォニーホールがあればいつでも一緒になることができる。そんな想いを込めて再建作業が行われているのだ。 その時、二人の視界の先に人影があった。スーツを着ている。サングラスをかけている。男はこちらに背を向けたまま、じっと佇んでいる。スーツ姿は振り返って、彼らに告げた。「お前達も、我々の仲間になれ」と、 男はポケットから拳銃を取り出して彼らに向けた。その銃口から煙が立ち上っている。「どういうつもりだ?」 「大人しく言う事を聞くのだ!」 そう叫んで発砲しようとした時だ、どこからか現れた一人の少女が割って入った。 少女の名は、猫島ウフ。 男の正体を知っている唯一の存在でもある。 彼女はスーツの男に語りかける。「おじさん」と、スーツの男は立ち止まって彼女を振り返った。サングラスをかけていた。男は黙っていた。彼女は続けて話しかける。男は無視をした。それでもかまわず話しつづけた。男の顔が曇った。 やがて彼女の話は終わる。スーツの男は、彼女に銃口を向けて問いかけた。「お前達はいったい何者なんだ?」と、サングラスの奥の瞳に光が宿るのが見えた。男はサングラスを外した。その目はとても真剣なものであった。「我々はうましか革命軍だ!」男は叫んだ。施設の存続は世界の秩序を維持する上で重大な意味を持つと彼らは考えた。その思想に賛同した有志達がこの秘密結社を結成したのだ。彼らの目的はただ一つ! ホールを爆破する!「我々は決して許さないぞ」スーツの男は言った。「我々の邪魔をするなら容赦はしない!」 スーツの男は、ポケットから拳銃を取り出した。男は引き金を引いた。乾いた音と共に発射された銃弾が彼女に命中した。だが、命中したのは的ではなかった。「なに?」彼女が撃たれても無傷だったことに疑問を抱いた。そして自分の胸を見ると同時に愕然とした。そこに拳銃が無かった。いつの間にか、拳銃は彼の手から離れていて、はるか彼方へと転がっていく。 「何が起こった?」スーツの男がそう呟いたときである、彼の背後にある気配を感じた。そこには一人の少女が立っていた。 その少女は手にした棒を地面に振り下ろすと「おみごと」とつぶやいた 男は振り返ろうとしたが身体を動かすことができなかった。彼は視線だけを後ろにやった、すると彼は驚愕して言葉を失った、その目は恐怖に支配されていたのだ。彼の目に飛び込んできたものは、鬼のような形相を浮かべる巨大な仏像の顔だったからだ。しかも、顔だけが浮いているのではなく、その姿全体が見えていたのだ。「なぜだ?」スーツの男がつぶやくと同時にその巨体が動き出す音が周囲に鳴り響いた次の瞬間だった 彼は吹き飛んだ 「うわぁあああああああ」叫び声をあげながらも地面から空中へと浮き上がるように飛んで行った、それはまさに人間ロケットと言っても差し支えないだろう、その証拠にその肉体は遥か彼方の上空へと飛ばされていった。その様子はまさに壮観だ。まるで宇宙へ飛び立った宇宙飛行士のような出で立ちだ。「やれやれ」 その光景を見届けた猫島がため息をついた。その足元には、先ほど撃ち殺したはずの男がいた、彼は死んだはずだった、なのにどうして生きているのか。実は、彼はスーツの下に防弾チョッキを着ていたのだ。彼はそのことに気づいたがもう遅かった、気づかないうちにその意識が消えていくのを感じ取るとその目に映るのは、遠くへと飛び去っていく男の後ろ姿だった「さらば、うましかシンフォニーホールの悪魔よ」とつぶやきその場を後にした その後、施設の建設現場の片隅で血まみれの死体が発見された 死体は全身を切り刻まれていたが、身元を特定することはできなかったという…… 施設でテロ事件が起きた。 その事件の影響もあって工事は一時中断されたが二〇三八年九月十日、再び建設が開始された。しかし、その建設は一ヶ月足らずで終わった。完成する前に解体されてしまったのである。解体作業は速やかに行われた。解体工事が行われた理由を知るのはごく一部の人物だけである、理由は簡単である、取り壊しが決定したその日に謎の火災が発生したのである、幸い火災は小規模なものだったが、建設現場には多数の負傷者が出た、さらに作業員の一人が死亡した、現場は騒然となった。 作業員の中に裏切り者がいたのではないか、もしくは何者かの侵入によって火事が発生したのだと憶測が乱れ飛んだ。その日から現場は警戒態勢に入った。その甲斐あってか作業員達に被害はなかった。現場に残された痕跡から捜査が進展したが容疑者は見つからなかった。工事現場で見つかったのは、大量の瓦礫だけであった。瓦礫の中から出てきたのは焼け焦げた無数の木材だけだった、それが建築材料に使われたものだとわかると事件は迷宮入りになった、この事件の原因は不明とされ現場は封鎖されることになった、事件の関係者が集められた。 現場の責任者が「犯人は必ず現れる」と発言した、それを聞いた人々は首を傾げるばかりであった、なぜならば誰一人として犯人の姿を目撃した者はいなかったのだから、しかし責任者の予想通り犯人が現れた、それは一匹のネズミだった、ネズミはその身を焼かれながらも現場に現れ人々の目に触れた。人々はそれを神の遣いではないかと思った。 その後、施設は再建されることなく閉鎖された、そして現在にいたるまで、その場所は放置されたままになっている。それはなぜか? 答えは単純だ その跡地には 大きな寺院が建っているのである その建物こそがうましか革命軍の本拠だった、その証拠に地下の施設からは今でも怪しげな実験が行われているという噂がある。 「以上のように世界線を破却しました」 ウフは事もなげに伝えた。 「都市伝説を孵化するなんて」 アーニャはたまげている。 「そうよ。卵はいつも創造性に満ちているの。期待が膨らむ。夢も悪夢も」 そういって側頭に銃を当てた。 「待ってくれ!」 楽府が慌てて制止した。 「なぜ? わたしは土の還る。お役御免だもの」 すると楽府が顔面を剥いだ。現れたのは死んだはずの男だ。 「実は破却士なんだ。君は俺の暗黒面を破却してくれた」 そして唇を重ねた。 「!」 赤らむウフ。「お雌鶏さんに挨拶しなきゃな」
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