恋心、落としました。

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 ***  不思議な出会いを果たしたその少女は、名前を“御子柴楓(みこしばかえで)”と言った。名乗られたら僕も名乗らない訳にはいかなくなる。“不知火瑛亮(しらぬいえいすけ)”だと言うと、彼女はからからと笑って告げた。 「名字ちょっとかっけーのに、名前フツーなんだ。おかしー」 「そ、そうか?」 「うんうん。まあ、あたしの“楓”って名前も、ババア臭いのかもしんないけどね」  ちゃんと笑える子なんじゃないか。少しだけ安堵した。  電車に乗り、並んで席に座ったところで――ばふっ、と肩に寄りかかられる。  彼女は上目使いで、にやりと笑った。 「こうしてると、カレカノみたいじゃね?」 「!?!?!!?!?」  僕は顔が熱くなり、次に背筋が寒くなった。これ。この図、結構まずいものなのではないか?僕は大学生とはいえ立派な大人だ。未成年の女子高生トこんなふうにくっついて歩くなんて、下手したら犯罪者と間違われるのではなかろうか。 「あああああのな、君な!大人をからかうのはやめろよなっ!」 「大人つっても、不知火さんもまだ大学生でしょ。あたしも高校生だけど年齢的にはもつすぐ成人なわけ。だからあたしも大人っちゃ大人みたいなもんなの。いいじゃん大人同士、距離近くても」 「世間的には二十歳になってない高校生って、あんま大人扱いされないと思うんだけど?君に何かあったら責任取らされるの僕なんだからね?」 「責任取らされるようなことしてくれんのー?」 「だ、たからさぁ……」  彼女が高校三年生だというのは聞いている。もうすぐ誕生日が来て、十八歳になるというのも。  たった数日。成人になるかならないかの数日の差に、どれほどの意味があるのだろうか。  確かに、僕もまだ親の金で大学に出させてもらってる身ではある。彼女に偉そうに説教できるほど立派な大人だとは思ってない。それでも年上であることは間違いないし、次の春には社会人になる身なのだ。そんな僕からすれば、誕生日が来ていようが来てなかろうが、まだまだ彼女は世間を知らない子供に思えたのだ。  だから、なのだろうか。昔からのお節介で、見知らぬ少女と一緒に電車に乗ってしまっているのは。 「僕の定期見たなら、その範囲も知ってるでしょ。乗換なしだけど、駅十個分。ほんのちょっぴり遠くから大学に通ってる」  時間が遅いせいか、同じ車両には誰も乗っていなかった。電車の振動と一緒に、響き渡るのは僕たちの声だけだ。 「君は僕の定期で、そのはしっこまで行きたかったの?家に帰りたくない理由があるとか?」
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