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Ⅰ
「ちょっと! いいんげんにしてよ! ラジオ聴きたいならイヤホン使えばいいでしょ!」
『次のニュースです。政府は少子高齢化対策の切り札として、新たに未来家庭庁――』
「いま何時だと思ってんのよ!」
……ガタンガタン……ガタンガタン……
深夜、寝静まった町を遠くから最終電車の走行ノイズが包み込む、深夜ラジオのボリュームを下げると、机へ向かう耳元に今夜もまた両親の不愉快なヒソヒソ声が聞こえてくる。暗闇に包まれた沈黙の空気は、安アパートの薄い仕切り壁を容易く通り抜けて、受験に失敗して以来、鋭敏となった耳元へと無遠慮に踏み込んでくるようになっていた。
……ヒソヒソ……ヒソヒソ……で、どんな塩梅なんだい……
ヒソヒソ……ヒソヒソ……どうもこうも、相変わらず毎日部屋に閉じこもって、なんだか気味悪くて……やっぱり駄目なのよ……
……ヒソヒソ……ヒソヒソ……いまさらそんなこと言ったってお前……上手くいくさ……
……そう思うなら、あなたから何か言ってくれればいいのに……。部屋にこもりっきりで、話しかけてもろくに返事さえしないんですからね。あなたは、夜遅くに帰ってきて、食事とお風呂を済ませて眠るだけなんだもの、息子の様子にさえ気がつきはしないんだから、いい気なものね……あたしと静香の身にもなって頂戴。静香は朝錬で朝早いんですからね。
ヒソヒソ……ヒソヒソ……
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